学校でのいじめ研修の進め方|校内研修で使える資料や事例集を紹介

いじめはどの学校でも起こり得る問題です。
児童生徒の健康や命に関わることだからこそ、教職員全体でのいじめに対する共通理解と対応力が求められます。
しかし学校現場でのいじめ研修は、どんな内容にすればいいのか悩むことが多いものです。資料の準備や当日の進行まで、一から決めるのは非常に大変です。

いじめの研修では、重要事項の共通理解や、実際にいじめを発見した際にどう動くかまで落とし込める研修にすることが大切です。
本記事では、学校でのいじめ研修を考えている方に向けて、研修の目的と重要事項や、研修で使える資料・事例集についても紹介します。
いじめ研修の目的と重要事項


いじめ研修を行う上で、まず整理しておきたいのは、何のために研修を行うのかという点です。
研修の目的があいまいなままだと、効果的に共通理解ができないばかりか、参加者にとっては毎年行われる義務的なものに受け止められてしまう可能性があります。



また、基本的な重要事項を軽視して、ケーススタディだけやっておくというような形だけの研修では、必要な共通理解が十分にされないリスクもあります。
いじめ研修の重要な目的として、以下のような基本的な事項をまずは確認しておきましょう。
いじめの定義を共通理解する
いじめ研修では、まず、いじめの定義を学校全体で再確認することが重要です。
いじめの定義
この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
(いじめ防止対策推進法 第2条 より)



何かをされた側の子どもが、つらいと思ったら、それはいじめです。心理的な影響を与える行為には、悪口やいじり行為なども含まれます。
この理解が不十分だと、「ふざけていただけ」「本人も笑っていた」などといった理由で、教員がいじめを認識しにくくなることがあります。
研修を通して、教職員の間でいじめの捉え方をそろえておくことは、対応のばらつきを防ぐうえで欠かせません。


学校いじめ対策組織の役割を共通理解する


いじめ防止対策推進法の第22条により、各学校は、いじめの防止等の対策のための組織(学校いじめ対策組織)を置くことが義務付けられています。
学校いじめ対策組織は,学校が組織的かつ実効的にいじめの問題に取り組むに当たって中核となる役割を担う。
(いじめの防止等のための基本的な方針 p.26 より)
学校全体でいじめ対策を進めるに当たり、学校いじめ対策組織の存在は欠かせません。
いじめ研修では、学校いじめ対策組織の役割をしっかりと共通理解することが求められます。
学校いじめ対策組織の役割としては、以下のようなものが挙げられます。
学校いじめ対策組織の役割
【未然防止】
・いじめの未然防止のため,いじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりを行う役割
【早期発見・事案対処】
・いじめの早期発見のため,いじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割
・いじめの早期発見・事案対処のため,いじめの疑いに関する情報や児童生徒の問題行動などに係る情報の収集と記録,共有を行う役割など
【学校いじめ防止基本方針に基づく各種取組】
・学校いじめ防止基本方針に基づく取組の実施や具体的な年間計画の作成・実行・検証・修正を行う役割
・学校いじめ防止基本方針における年間計画に基づき,いじめの防止等に係る校内研修を企画し,計画的に実施する役割など
(いじめの防止等のための基本的な方針 p.26~p.27 より)



そもそも、校内研修の企画と実施は、学校いじめ対策組織の役割として定められています。
これまで重大事態が発生した学校では、学校いじめ対策組織が形骸化していた事例が多数報告されています。
教職員に対し、学校いじめ対策組織の役割と重要性について、しっかりと共通理解を促すことが重要です。


具体的ないじめの相談窓口を共通理解する
国の基本方針では、いじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割は、学校いじめ対策組織が担うこととされています。
しかし、誰にどのように報告するかというところまで具体的に共通理解しておく必要があります。
そのためにも、学校いじめ対策組織のかなめとなる人物として、情報集約担当の教員を決めておきましょう。
いじめの情報を集める担当者を決めておくと、教職員が迷わず報告しやすくなります。
生徒指導に造詣の深い吉田順氏も、「かなめ」のいない組織では対応できないとし、以下のように述べています。
組織的対応の重要性や、最近では「チーム学校」の必要性が言われていますが、いくら立派な組織やチームを作っても、「かなめ」となる教師がいないのですから、監督のいない野球チームのようなものです。
吉田順(2015). 『いじめ指導24の鉄則:うまくいかない指導には「わけ」がある』より
理想を言うなら、いじめ対策を専門とする教員として、いじめ担当教員のような役割を決めておくのが一番良いと思います。
もしくは、生徒指導主事や、生徒指導担当教員を、学校いじめ対策組織の中心人物とし、情報集約担当として周知するのが良いかと思われます。


学校いじめ防止基本方針を共通理解する
学校いじめ防止基本方針の策定は、いじめ防止対策推進法の第13条によって定められた学校の義務です。
国の基本方針では、学校いじめ防止基本方針の意義について以下のように述べられています。
・ 学校いじめ防止基本方針に基づく対応が徹底されることにより,教職員がいじめを抱え込まず,かつ,学校のいじめへの対応が個々の教職員による対応ではなく組織として一貫した対応となる。
「いじめの防止等のための基本的な方針」p.24より



学校いじめ防止基本方針に基づく対応を、教員が共通理解しておくことは重要なわけですね。
そのため、いじめ研修では、学校いじめ防止基本方針の内容について、しっかりと再確認しておくことが求められます。
また、学校いじめ防止基本方針はPDCAサイクルで定期的に点検や見直しを行う必要があることから、研修をその機会の一つとして、教員全員で不備や修正すべき点が無いか再確認することも有効かと思われます。


更には学校いじめ防止基本方針だけでなく、いじめ防止対策推進法や、国の基本方針の内容についても各自が理解を進めるよう、教示することも重要かと考えられます。


いじめの校内研修で使える資料や事例集
いじめの校内研修を行うときは、学校独自の資料だけでなく、既に作成されている資料や事例集を活用すると、研修の内容を整理しやすくなります。
自治体によるいじめ研修用資料
各県や自治体の教育委員会が、いじめ研修用の資料を作成している場合もあります。
例えば東京都教育委員会では、「いじめ防止 | 生活指導ポータル」のページにて、いじめ防止に関する高クオリティの資料を公開しています。


デジタルブック版(東京都教育委員会)より
デジタルブックとして公開されている『いじめ総合対策【第3次】下巻』において、いじめ研修としての「教員研修プログラム」に関して詳しく記載されていますので、参考になるかと思います。
他の自治体では、例えば愛媛県総合教育センターが「いじめの早期対応における校内研修資料」を動画・プレゼン・ワークシートやハンドブックに至るまで公開しています。
各地域が研修資料を公開しているかどうかなど、まずは一度調べてみるのもおすすめです。
いじめの重大化を防ぐための研修用事例集


こども家庭庁と文部科学省が共同で作成し、令和7年に公表された「いじめの重大化を防ぐための研修用事例集」を使用するのも手です。
この事例集では、小学校・中学校・高等学校で発生したケースが設定されています。
よくある実際の事例について考える機会となりますので、いじめの定義や学校いじめ対策組織など必要な知識を学んだあとに、仕上げとしてこちらの事例集に取り掛かるのも良いかと思われます。
同じくこども家庭庁と文部科学省が作成した「いじめの重大化を防ぐための留意事項集」についても、あわせて周知しておくと良いかもしれません。
国立教育政策研究所によるいじめに関する校内研修ツール
国立教育政策研究所が公開している「いじめに関する校内研修ツール」では、以下のファイルに関するPDFがダウンロードできます。
- 自己点検シート
- 点検内容の解説
- 研修会アンケート
内容としては、いじめに対する認識や取組姿勢、日ごろの取組について、自己点検を行うことが目的の研修となっているようです。
これだけでは知識の理解に関する部分はカバーできませんが、自身の行動を省みる機会として使用できるかと思います。
いじめ研修用の動画教材
いじめ研修に使用できる動画教材も、いくつか使用できるものがあります。
例えば、文部科学省による『動画教材「ネットいじめ研修」』では、研修用動画の関連資料としてパワーポイントをダウンロードすることができます。
他にも独立行政法人教職員支援機構NITSによる『いじめ防止対策推進法等に基づくいじめ問題への対応について:校内研修シリーズ No.174』も、専門家によるYoutube動画での解説や、演習シートをダウンロードすることができます。
また、児童生徒用ですが、文部科学省による「いじめの未然防止に関する啓発動画」についてはクオリティも高く、児童生徒への啓発用として、まず教員が視聴するというのも考えられます。
各自治体や大学がいじめ研修用の動画教材を作成している場合がありますので、一度調べてみるのも手です。
いじめの研修は年に3回以上は行う
いじめ研修の実施については、いじめ防止対策推進法の第18条において定められている学校の義務です。
いじめ防止対策推進法 第18条の2
学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校の教職員に対し、いじめの防止等のための対策に関する研修の実施その他のいじめの防止等のための対策に関する資質の向上に必要な措置を計画的に行わなければならない。
いじめ研修の回数については法律に書かれてはいませんが、国の基本方針では、いじめの研修は年に複数回行う必要があると述べられています。
全ての教職員の共通理解を図るため,年に複数回,いじめの問題に関する校内研修を実施するよう,取組を促す。
(いじめの防止等のための基本的な方針 p.21 より)
また、東京都教育委員会による「いじめ総合対策【第3次】上巻デジタルブック版」によると、いじめ防止において必ず取り組む18の項目として、年3回以上の研修の実施が明言されています。
以上のことから、最低でも1学期に1回はいじめの研修を行うことが、学校には求められていると言えるでしょう。
いじめの研修により期待される効果


いじめを防止すべきという認識は、すべての先生が持っています。しかし、実際にどう動けばいいかは、先生によって大きな差があるのが現実です。
いじめの研修により、以下のような教師の不適切対応を防ぐ効果が期待されます。
いじめの抱え込みを防止する


クラス担任や部活顧問の先生がひとりでいじめを把握し、単独で解決しようとするケースは少なくありません。
子どもへの思い入れが強いからこそ、「自分のクラスのことは自分でなんとかしなければ」という気持ちが働くのは自然なことです。
しかし、担任が抱え込んでしまうと、問題が学年や管理職に共有されないまま時間だけが経過し、いじめが深刻化するリスクが高まります。
また、担任ひとりの判断で動くと、対応の客観性が失われやすくなります。
いじめの認知は、学校いじめ対策組織によって行うことが原則です。担任ひとりが情報を持ち続ける状況は、学校としての組織的対応とは言えません。


形式的な謝罪会を防止する


抱え込みと並んでよく起こる問題が、形式的な謝罪会といった教員の不適切な対応です。
たとえ加害者が口だけの謝罪をしたとしても、それが本人の自発的な気持ちから出たものでなければ、被害者の傷が癒えることはありません。
形式的な謝罪で場を収めようとする対応は、いじめの実態を曖昧にし、再発防止の機会を失うことにもつながります。
いじめ防止対策推進法の趣旨でも、被害者の意向を尊重した対応が求められており、継続的かつ慎重な対応をすることが求められています。


こうした抱え込みや形式的対応を防ぐためにも、学校全体で情報を共有しなくてはなりません。
スムーズな組織的対応を実現する
教師の不適切な対応でいじめを重大化させないために、学校全体で情報を共有し、しっかりとした共通認識の下でチームとして動ける体制が必要です。
そのための土台をつくるのが、校内研修の大きな役割です。
また、2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」では、学校はいじめ防止のための取り組みを組織的に行う義務を負っています。
研修を定期的に実施することは、法的な観点からも学校に求められていることです。


まとめ
いじめの研修は、形だけ実施したで終わらせないことが大切です。
いじめの定義や、学校いじめ対策組織の共通理解はもちろんのこと、担任が一人で抱え込まずに相談しやすい職場になるための土台として、校内研修を積み重ねていただければと思います。
研修を形式的なものにしないためには、研修で何を学んだかだけでなく、その日から何を変えるかまで考えることが大切です。
いじめ研修を、学校の対応体制を見直し、実際の行動につなげる機会として活用していく必要があります。
それによって、全教職員の間で、「いじめを絶対に許さない」という共通認識を持ち、それを生徒に毅然とした態度で示していくことが、いじめ防止のための重要な一歩となります。





