いじめをなくすには|大人と子供ができること

いじめは、子供の心と人生に長期的な影響を与える深刻な問題です。
これまでいじめに纏わる多くの研究や提言がされてきましたが、いじめの認知件数は年々高い水準で推移しており、重大事態も多く発生しています。
そのことから、いじめをなくすことは非常に難しい問題であり、生半可な施策では達成できないことが見込まれます。様々な知見を参考にしつつ、いじめゼロに向けて着実に減らしていく必要があります。
では、いじめをなくす・減らすために、私たちは何ができるのでしょうか。
本記事ではいじめをなくすために、大人にできることと子供にできることについて簡単に解説していきます。

いじめは誰の身近にもあるものです。自分に何ができるのか、この記事の内容を参考に考えてみましょう。
いじめをなくすために大人ができること
まずは、いじめをなくすために大人がすべきことを紹介します。教師だけでなく、学校現場に関わる人や保護者の方は参考にしてみてください。
①大人が「いじめをさせない」という本気度を示す
いじめをなくすにあたって、最も重要だと考えられるのは、大人がどれほど本気で「いじめを許さない」という態度を示しているかどうかです。
人の行動は、その集団で共有されている暗黙のルールや雰囲気(集団規範)によって左右されがちです。
実際に、いじめに否定的な集団規範が高い学級では、生徒のいじめ加害傾向が低いという研究結果の論文も存在しています。


また、大西氏の論文によれば、いじめに否定的な集団規範を高めるためには、教師の態度が重要であることが分かっています。つまり、子どもの周囲にいる大人の態度によって、子どもたちの集団規範を高めることができるわけです。
逆を言えば、大人がいじめに対して「よくあること」「子供同士の問題」と軽く扱ってしまうと、それ自体がいじめを容認するメッセージになってしまいます。
学校が主となって家庭や地域とも連携し、子どもの周囲にいる大人たちがいじめは決して許さないという一貫したメッセージを示し、集団規範を高めていくことが重要です。
海外のいじめ防止プログラムでも大人の態度が重要視されている
海外の有名ないじめ防止プログラムである「オルヴェウスいじめ防止プログラム(OBPP)」や「KiVaプログラム」でも、学校を中心とした大人の態度が重要視されています。
例えばオルヴェウスいじめ防止プログラムでは、いじめ防止協議委員会を中心に、徹底的ないじめ対策を行っていじめを減少させます。
その取り組みの一つとして「校内生徒見守り制度」があり、大人が生徒をしっかりと見守り監視することで、いじめを許さないというシグナルを送っているわけです。
「見守る大人の行動と態度が最も重要なのです。」
『オルヴェウス・いじめ防止プログラム 学校と教師の道しるべ』Dan Olweus et al. (2013) p.68
「見守りをしている大人が断固として、また一貫して介入するばあいには、それはいじめている生徒や傍観者に対する重要なシグナルを送ることになります。つまり私たちは学校でのいじめを決して許さないし、そうした行為はやめさせられ、必ず否定的結果がもたらされる、というシグナルです。」
『オルヴェウス・いじめ防止プログラム 学校と教師の道しるべ』Dan Olweus et al. (2013) p.68
オルヴェウスいじめ防止プログラムは、世界でも著名ないじめ防止プログラムとして、「いじめを受けた、他の人をいじめたことがある生徒の数値が平均して約20%から70%減少」するなど、高い効果を誇っています。


学校いじめ対策組織を中心に未然防止を進める
いじめの防止等のための基本的な方針 (国の基本方針)によれば、「学校いじめ対策組織は,学校が組織的かつ実効的にいじめの問題に取り組むに当たって中核となる役割を担う」(p.26)と述べられています。
学校いじめ対策組織の役割としても、「いじめの未然防止のため,いじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりを行う役割」が挙げられており、組織を中心としたいじめの未然防止活動が肝要です。
児童生徒及び保護者に対して組織の存在や活動をアピールし、学校や先生たちが本気でいじめを無くそうとしていること、いじめから子どもたちを本気で守ろうとしていることを認識させなければなりません。


学校いじめ対策組織に対する信頼が子どもたちの間で生まれれば、集団規範や被援助志向性といったいじめ防止要素の向上が見込めます。


②学校や学級で反いじめ方針を掲げる
教育心理学研究に掲載された松尾直博氏の論文「学校における暴力・いじめ防止プログラムの動向:学校・学級単位での取り組み」(2002)では、組織全体の方針を示すことの重要性が述べられています。
論文内では、「反いじめ方針 Anti-Bullying Policy」の作成を提唱するRigby(2001)や、「いじめ非容認方針 Zero Tolerance Policy」の重要性を提唱するNewman et al.(2000)らの考え方が紹介されています。その内の一節を以下に引用します。
Newman et al.(2000)は,いじめを予防する上で重要なルールとして,あらゆるいじめをいっさい許さないとする「いじめ非容認方針zero tolerance policy」を挙げている。子どもはどの程度のレベルの攻撃であれば教師は許してくれるかの制限を見定めようとする。したがって,いかに軽いいじめであっても教師がそれを認めてしまえば,いじめは容易に悪化すると考えられる。逆に,軽いいじめであっても教師が「絶対にいかなるいじめも容認しない」という態度を示せば,それは深刻ないじめの発生に対して予防的な強い影響力を持つという考え方である。
「学校における暴力・いじめ防止プログラムの動向:学校・学級単位での取り組み」(松尾,2002)より
このように学校や学級で反いじめ方針を掲げ、それを基にして大人たちがいかなるいじめも許さないという態度を示すことが、いじめ予防に繋がるという考え方は海外でも提唱されています。
前述したオルヴェウスいじめ防止プログラムにおいても、4つの反いじめルールを導入することが推奨されています。
重要なことは、いつでも、どこでも、いじめが起きたとき、大人が4つのルールを口頭で述べることが容易なように、学校のあらゆる場所にルールを貼りだすことです。
『オルヴェウス・いじめ防止プログラム 学校と教師の道しるべ』Dan Olweus et al. (2013) p.69
このように反いじめ方針を学校や大人たちが掲げ、子どもに周知することにより、大人がいじめをなくそうと本気で取り組んでいる姿勢を示すことができます。
③大人がいじめの正しい知識を持つ
反いじめの方針を周知するだけではなく、大人たち自身がいじめについての正しい知識を持つことが重要です。
いじめについて知識を得るために、教員を中心とした大人たちが最低限読んでおくべきものとして、以下が挙げられます。
・いじめ防止対策推進法
・いじめの防止等のための基本的な方針 (国の基本方針)
・地方いじめ防止基本方針
・学校いじめ防止基本方針
いじめ防止対策推進法(いじめ防止法)は、2013年に制定された、いじめから子どもを守るための法律です。いじめの定義や学校が講ずべき施策についても定められているため、大人はしっかりと理解しておく必要があります。


また、いじめの防止等のための基本的な方針 (国の基本方針)は、いじめ防止法よりも具体的ないじめ対応について記載されているため、こちらも内容をよく理解しておく必要があります。


それぞれの自治体や学校で定められている、地方いじめ防止基本方針や学校いじめ防止基本方針についても、同様に内容を確認しておく必要があるでしょう。
いじめ防止法や国の基本方針を読んでいない教員も多い
いじめに関する知識を持つうえで、前述したいじめ防止法や国の基本方針は非常に重要なものですが、読んでいない教員も多くいます。
実際に、山岡あゆち氏の研究報告書「いじめの加害の再発予防に関する探索的研究」(2023)では、11名の教員(うち1名は近年退職した教員)にアンケートを実施したところ、以下のような結果が出たと述べられています。
「いじめ防止対策推進法」について聞いたことがあるか
・「聞いたことがある」8名(72.7%)
・「聞いたことはない」3名(27.3%)
聞いたことがないという教員が11人中3名もいることが驚きです。
さらに、「聞いたことがある」の8名に対して、いじめ防止法と国の基本方針を読んだことがあるかどうかを尋ねた結果が以下になります。
「いじめ防止対策推進法」を読んだことがあるか
・「全部読んだことがあり、内容を知っている」2名(25%)
・「部分的に読んだことがあり、部分的に内容を知っている」4名(50%)
・「読んだことはない」2名(25%)
「いじめの防止等のための基本的な方針」を読んだことがあるか
・「読んだことがある」5名(62.5%)
・「読んだことがない」3名(37.5%)
調査人数は少ないものの、これらの結果から、いじめ防止法と国の基本方針を読んでいない教員が多いことが想像できます。
同様の調査としては、坂田仰氏・山田知代氏による「いじめ防止対策推進法の学校現場への浸透と課題-A市における教員の認識を中心に-」(2021, 日本女子大学教職教育開発センター年報) が挙げられます。
こちらの調査はいじめに関わる研修会に参加した83名の教員に対して行われたもので、いじめ防止法や国の基本方針を読んだことがあるかどうかや、よく理解しているかどうかについて回答を求めたものです。
例えば、「いじめ防止基本方針(国の基本方針)」を読んだことないと回答した割合は、管理職では17.5%、一般教員では40%となっています。
その他の結果は割愛しますが、考察としては以下のように述べられています。
いじめ防止対策推進法、文部科学大臣策定の「いじめ防止基本方針」等の教員への浸透度は未だ不十分であるという実態が明らかとなった。
「いじめ防止基本方針」や「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」については、一般教員のみならず、管理職層でさえもその理解が十分に浸透していない。
坂田仰,山田知代(2021).「いじめ防止対策推進法の学校現場への浸透と課題-A市における教員の認識を中心に-」日本女子大学教職教育開発センター年報,(7),27-34



大学の教職課程においても、いじめについて学ぶような科目はほとんどありません。無知のまま教員になる人が多いのが実態でしょう。
まとめると、教員や親がいじめについて正しい知識を持ち、反いじめ方針を掲げて子どもたちの模範となる態度を示すことが、いじめ防止には求められると言えるでしょう。
いじめをなくすために子どもができること
次に、いじめをなくすために、子どもにできることを紹介します。
①いじめに気づくこと
いじめを止める第一歩は、いじめに気づくことです。
からかい、無視、悪口、仲間外れなど、いじめには多くの形があります。
いじめをしている(加害者)側は、「遊び」「冗談」「イジリ」という風に弁明や言い訳をすることが多いですが、されている(被害者)側がつらいと感じていれば、それはいじめです。
具体的ないじめの例としては、以下のようなものがあります。
これらの例に限らず、他人が傷つくような言動があれば、いじめだと判断しましょう。
このように、いじめの定義についてしっかりと理解し、まずはいじめに気づくことが重要です。


②笑って同調しない・面白がらない
いじめは、周りで見ている子どもの反応も重要です。
「いじめの四層構造」という考え方があり、おもしろがっている子(観衆)や見て見ぬふりをする子(傍観者)の行動も、いじめのエスカレートの原因になることがあります。


学校では他人への悪口や暴力も起こりがちですが、そのようないじめと疑われる言動に対し、普段から笑って同調したり、面白がった反応をしないようにすることが重要です。
可能であれば、いじめ行動に対して注意をしたり、否定的な反応を示すことができれば、いじめの抑止に繋がります。
ただし逆恨みされるような危険もありますので、次に述べるように大人に相談・報告をすることも選択肢の一つです。


③大人に相談・報告をする
いじめは一人で解決しなければならない問題ではありません。
むしろ、いじめを解決するのは学校の先生たちや、大人の役目です。


頼りになりそうな先生なら誰でも良いですし、他にも保護者、保健室の先生、スクールカウンセラーなど、相談できる大人はたくさんいます。
また、各学校には法律によって、いじめの防止対策のための組織(学校いじめ対策組織)が設置されています。
学校いじめ対策組織は、いじめを素早く解決し、生徒をいじめから守り通すための組織です。
いじめは早期発見が重要なので、少しでも疑わしい言動に気づいたら、すぐに大人に相談しましょう。





大人に相談したことで、いじめが解決できたケースはたくさんあります。決して一人で抱え込む必要はありません。
まとめ
いじめをなくすためには、大人の言動が何より重要です。しかし子供の立場でもできることはありますので、両者がそれぞれの立場で役割を果たすことが重要です。
いじめは、日々の小さな言動や集団の空気の積み重ねの中で生まれがちです。だからこそ、なくすための行動もまた、小さな積み重ねです。
子どものみんなは、いじめに対して勇敢に立ち向かうことができなくても、
こうした小さな選択の積み重ねが、いじめをなくしていく力になります。
一方で、大人の役割は非常に大きなものです。いじめの未然予防のために、いじめを否定する雰囲気づくりや、相談しても大丈夫だと思える関係づくりに取り組まなければなりません。
日ごろからいじめの知識や情報をキャッチし、学び続けていくことが大人たちに課せられた責務と言えるでしょう。





