いじめは、子どもから大人まで、どの学校・職場でも起こりうる深刻な問題です。
「なぜいじめは生まれるのか?」「いじめの原因は何なのか?」
この問いに対して、単一の原因だけで説明することはできません。しかし、研究や調査から共通して浮かび上がる要因は存在すると考えます。
いくつかの研究や論文で、いじめの原因を含めた分析が行われています。それらをまとめ、様々な視点から解析していきたいと思います。
本記事では、いじめの原因を理解しやすいように、ランキングやグラフとともに解説します。

いじめの原因に対して、加害者に対しての調査だけでなく、環境要因なども含めて包括的に捉えていきましょう。
いじめの態様別状況からいじめの原因を捉える
いじめの原因を分析するに当たって、まずはどのような形のいじめが多いのかというグラフから読み取ってみます。
文部科学省によるいじめの態様別状況ランキング


文部科学省が毎年発表している児童生徒の問題行動の資料のグラフによれば、いじめの態様別状況として最も多い1位は「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」であり、小学校・中学校・高等学校において半数以上を占めています。
つまり言葉によるいじめが最も多く発生しており、ひやかしやからかいが含まれていることからも、面白半分での理由が多いと推測されます。
ちなみに第2位は「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする」であり、こういった暴力系のいじめは特に小学校や特別支援学校で顕著です。
中学校や高等学校と比べ、年齢層の低い子どもが多い小学校と特別支援学校では、ついカッとなって手が出てしまう子どもが多いことが原因となって、いじめが発生していると予測ができます。
警察庁によるいじめ事件のデータ


令和6年のいじめによる事件の罪種別検挙・補導人員のデータを見てみると、罪種別では、暴行と傷害で総数の約5割を占めています。
つまり、事件として検挙・補導されるようないじめは、暴力的なものが最も多いことが分かります。
また、児童買春や不同意わいせつといった性的なものも次に多いことから、性的欲求が原因となって起こっているものも少なくないことが読み取れます。
では次に、加害者に対して行った調査の結果から、いじめの原因・動機を見ていきます。
加害者の視点からいじめの原因を捉える
いじめの原因や理由を、加害者に対してのアンケート調査から分析した研究をまとめます。
加害者視点から見たいじめの原因(理由)ランキング
下の図は、2002年に久保田真功氏が徳島県内の小学校4校に在籍する児童701名に対して行った調査の結果です。調査内容としては、①いじめ被害経験、②いじめ加害経験、③加害者・観衆の人数、④いじめをした理由となっています。なお、いじめた理由に関する質問項目としては、D.MatzaとG.M.Sykes(1957)の「中和の技術」が参考にされています。


調査結果によると、加害者視点によるいじめた理由の1位は、「相手に悪いところがあるから(被害の否定)」の62%でした。
次いで2位は「遊びやふざけだと思っていたから(危害の否定)」の40.9%で、3位は「なんとなくいじめたくなるから(不明確な動機)」の22.8%でした。
なお、この研究の一番の趣旨は、いじめ行為の正当化に影響を及ぼす要因を調べることであり、いじめの要因を調べることが本旨ではないことを踏まえて理解する必要があります。



これはあくまで、加害者がいじめを行う際にどういった理由(言い訳)を考えて正当化しているかを示す研究なわけですね。
検挙・補導された加害者視点から見たいじめの原因(動機)ランキング


こちらのグラフでは、いじめの原因・動機の1位として、「力が弱い・無抵抗と感じる相手へのからかい面白半分」が37.7%となっています。
2位は「いい子ぶる・なまいきと感じる相手へのはらいせ」が20.4%であり、3位は「態度・動作が鈍いと感じる相手へのからかい面白半分」が11.8%となっています。
なお、この調査は検挙・補導人員313人の回答によるものであり、重大な部類のいじめで、なおかつ加害者視点から見た調査であることを踏まえて分析する必要があります。
また、今回のデータではいじめの種類が「はらいせ」と「からかい面白半分」の2つにしか分類されていませんが、さらに多くの分類に分けた論文もあります。次の章ではいじめの種類分けをご紹介します。
児童への調査によるいじめ理由の分類
「いじめにおける役割」(井上・戸田・中松, 1986)では、いじめの理由を児童に対して調査し、その因子分析の結果として「こらしめ」「異質性排除」「不条理」の3因子を抽出しています。つまり、理由ごとにいじめを大きく3つで分けると以下のようになります。
- こらしめのいじめ
- 異質性排除いじめ
- 不条理いじめ
また、「児童・生徒の教師認知がいじめの加害傾向に及ぼす影響:学級の集団規範およびいじめに対する罪悪感に着目して」(大西・黒川・吉田, 2009)の論文内では、井上らの研究における因子の名称を変更し、以下のように分類しています。
・制裁的いじめ
・異質性排除いじめ
・享楽的いじめ
「制裁的いじめ」は、相手に落ち度があると認識したうえで制裁することを目的としています。加害者側にとっては一種の正義と感じているようなケースもあります。
「異質性排除いじめ」は、仲間内の中で劣っている者や変わっているものを排除しようとするいじめです。いわゆるノリの合わない者を排除しようとする動きのことです。
「享楽的いじめ」は、加害者側のストレスの発散や快楽を満たすことを目的としています。なんとなくイライラするから弱い者いじめをするケースなどが当てはまります。
いじめている子どもの心理の分類
1998年に東京都立教育研究所から発行された研究報告書では、いじめる行為の動機となったり 、いじめ行為を行っているときの様々な心理についてまとめられています。
いじめている時の心理
①仲間求め (友人 〈仲間〉を求めている)
②欲求不満 (欲求不満があり 、そのいらいらを晴らしたい)
③反発・報復 (相手の言動に対して反発・報復したい)
④嫉妬心 (相手をねたみ、引きずり下ろそうとする)
⑤支配欲 (相手を思いどおりに支配しようとする)
⑥愉快感 (遊び感覚で愉快な気持ちを味わおうとする)
⑦嫌悪感(感覚的に相手を遠ざけたい、近寄らせたくない)
⑧同調性 (強い者に追従してしまう。数の多い側に入っていたい)
「『いじめ問題』研究報告書 いじめの心理と構造をふまえた解決の方策」(東京都立教育研究所, 1998)より
このようにいじめ加害者の心理は様々であり、いじめを行う原因を加害者の心理から分析する場合は、これらの様々な気持ちが重なり合っていることを踏まえて読み解く必要があります。
また、遊び感覚でいじめる子どもの理解として、「いじめている子どもたちには、いじめている意識が乏しく罪悪感をもたないことが多い。」(p.24)とも述べられていることから、人の気持ちを大して深く考えずにいじめを行っている子どもが多いことにも留意しなくてはなりません。
第三者から見たいじめの原因ランキング
以下の表は、現職教師や大学生に対して行った、いじめの原因の認識についての調査結果です。


上図は、昭和63年から平成元年にかけて、大学2年生・大学4年生(教育実習生)・現職教師に対して、いじめの原因をどうとらえているか(原因の認識)について調査した結果です。
こちらの調査における、いじめの原因の第1位は、「欲求不満・ストレス」となっています。
ただし、現職教員だけの結果を見てみると、第1位は同率で「家庭問題」と「心(道徳心・人間性)の荒廃」となっており、次点が「友人関係」となっています。
違いが表れた理由として、現職教員は普段から実際に子どもと触れ合っているため、大学生と比べてより具体性な原因を示す傾向があると考えられます。
いじめの原因を様々な要因から探る
いじめの原因を加害者の言動から分析するだけではなく、学校の環境など様々な要因から分析する研究も多くあります。
気質的要因と環境的要因によるいじめへの影響


こちらの研究では、気質的要因と環境要因がいじめに関連しているという考えが示されています。
2009年に中学校の生徒へ行った調査の結果、まず環境的要因として、家庭安らぎ状況がいじめに関連していることが示されています。
また、パソコンの使用時間が長い生徒は関係性いじめ被害・非身体的いじめ被害と有意な相関が見られ、携帯電話の使用時間が長い生徒は、関係性いじめ加害との有意な相関が示されています。
気質的要因においては、自閉症傾向に関しては「いじめ被害・加害の関連がある可能性があると考えられるが、他者からの評価と総合して考える必要がある」(p.311)と述べられています。
また、サイコパス傾向がいじめ被害・加害に影響を与えており、その背景として脳機能が影響している可能性が挙げられています。
集団構造や集団規範によるいじめへの影響
集団の構造や、集団規範、いわゆる「クラスの雰囲気」がいじめに影響を与えているという研究は多くあります。
いじめの構造論として最も有名なのが、いじめの四層構造です。


被害者と加害者の関係だけではなく、それを見たり聞いたりしている観衆や傍観者も、いじめに対して影響を与えているという考え方です。
簡単に言えば、「周りで面白がったり囃し立てたりする者がいることが、いじめが発生しエスカレートする原因となる」ことがあるというわけですね。
いじめの四層構造を含めた構造論については、以下の記事で詳しく解説しています。


いじめと集団規範の関係については、大西彩子氏による研究が有名です。
大西氏は研究によって、いじめに否定的な集団規範が高い学級では、生徒のいじめ加害傾向が低いことを示しています。
また、集団規範を高める要因として、教師の存在が挙げられています。
大西氏の研究によれば、教師が受容的で親近感があり、自信をもった客観的な態度を児童生徒に示すことが、いじめに否定的な学級規範を高める効果をもつことを明らかにしています。
簡単に言えば、「教師がしっかりしていて雰囲気が良いクラスでは、いじめが起きにくい傾向がある」というわけです。
しかし、裏を返せば、教師に問題があって雰囲気の悪いクラスであることは、いじめが起きやすい要因の一つになるとも言えるわけですね。
学校風土にいじめの原因を探る
いじめや不登校の原因に対し、学校風土に着目する考え方もあります。
例えば、子どもみんなプロジェクトにおけるハンドブックでは、「学校風土を向上させることにより、いじめ、不登校、暴力などを予防したり、学力を向上したりできる可能性が高い」と述べられています。


この学校風土における考え方を推進している代表的な人物は、子どもの発達科学研究所で所長を務める和久田学氏です。その思想については、教育新聞における連載記事『学校風土の「見える化」ー不登校・いじめの克服へー』にて詳しく語られています。
いじめがエスカレートする原因について
最後に、久保田真功氏の2013年の論文から、いじめの理由およびいじめがエスカレートする原因について紹介したいと思います。
本研究では、いじめをした理由に関する項目について因子分析を行った結果、以下の5つの因子が抽出されています。
・「異質者排除」(異質な者への排除意識にもとづくもの)
・「制裁」(被害者を懲らしめるという制裁感覚にもとづくもの)
・「遊び快楽指向」(被害者の属性とはおよそ無関係な身勝手な理由によって行われる遊びや快楽を目的としたもの)
・「周囲への同調」(周囲の雰囲気に流されたとするもの)
・「家庭内でのストレス発散」(家庭内で生じたストレスを攻撃しやすい者に対してぶつけているもの)
「なぜいじめはエスカレートするのか?─いじめ加害者の利益に着目して─」(久保田真功,2013)より
いじめをエスカレートさせる要因については、加害者の性別、いじめをした理由、いじめによる利益を実感するようになることが有意な正の影響を及ぼしていたことが明らかになっています。
また、加害者が自分の所属しているクラスに否定的なイメージを抱いている場合に、加害者側はいじめをすることによる利益を実感しやすいことが明らかとなっています。


この図からも、加害者本人の要因だけでなく、否定的なクラスイメージなど、環境要因が絡み合っていじめがエスカレートしていることが分かります。
いじめの原因は、加害者本人の素質や考え方が大きく関わっていますが、それと同時に環境要因がいじめを促進する要因として複雑に絡み合っているわけですね。
まとめ
いじめの原因は、個人の思想が大きいものの、それだけではなく複合的な背景によって生じています。
人間関係のストレスや学校・クラスの雰囲気、家庭環境、SNSなど、さまざまな要素が重なり合っていじめが発生していることが、研究や調査の内容からも読み取れます。
つまり、特定の要因だけに注目すると、対策はどうしても不十分になってしまいます。いじめ問題を理解するうえで、個人の行動や考え方だけでなく、集団全体の構造に視点を広げることが必要になります。
重要なのは、いじめは絶対に許されないものだという認識を共有し、どの立場にある子どもも安心できる学校文化を育てることです。
いじめられている側には原因と問題を追及しない
いじめの原因論を語るに当たり、最後に重要な点について述べておきます。
いじめられる側に原因を求める意見を、SNSなどで時々見かけます。「いじめられる方も原因があるんじゃないのか?」といった内容です。しかし、いじめは誰に対して行うことも許されないことを踏まえると、その問いかけ自体がナンセンスです。
いじめの原因と問題は、いじめている側だけに追及すべきであり、いじめられる側への原因の追究は行うべきではないということを最後のまとめとしたいと思います。










