「学校とのつながり」がいじめを予防する|学校風土に着目した研究

いじめ問題は、子どもたちの心身の健康や学校生活の質に深刻な影響を与える重大な社会問題です。

いじめは単に発生後に対応するだけでなく、未然に防ぐことが最重要です。

そこで文部科学省の機関である国立教育政策研究所(NIER)が実施した調査研究では、生徒の「学校とのつながり」への意識が、いじめ問題の未然防止と結びつくことが実証的に示されました。

本記事では、「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究」の最終報告書(国立教育政策研究所, 2024)に基づき、いじめ予防における「学校とのつながり」の重要性について詳しく紹介します 。

目次

いじめ予防における「学校とのつながり」の重要性

「学校とのつながり」の重要性を考える上で、まずはその考え方の基盤となっている学校風土についても解説していきます。

学校風土への着目の必要性

いじめ対策において、個々の生徒の心的特性や学級規範に焦点を当てる研究が多い中で、「学校風土」に着目した研究も進められています。

学校風土とは、学校内のメンバーが共有する価値観、信念、人間関係などが組み合わさって生み出される環境の状態を指します 。

海外の論文や国内の研究者内でも、良好な学校風土を築くことは、いじめの防止における基盤であると考えられています。

「学校とのつながり」とは何か

国立教育政策研究所における説明では、「学校とのつながり」とは、⽣徒による学校への愛着や帰属意識を表す概念のことを指します。教師の支援への認識や、学級の雰囲気、自己有用感など、様々な要素が絡み合って形成されるものです。

また、「学校とのつながり」は学校⾵⼟の鍵となる概念の⼀つであり、カリフォルニア州の学校⾵⼟測定システムであるCalSCHLSでも重きが置かれているようです。

国立教育政策研究所の研究では、この「学校とのつながり」は、いじめの加害の未然防⽌にも関連するものとして仮定され、調査が進められました。

「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究(令和2・3年度調査)」最終報告書
(国立教育政策研究所, 2024)p.15より

「学校とのつながり」尺度

「学校とのつながり」尺度は、CalSCHLSの児童⽣徒⽤調査であるCHKSを参考に作成されており、「私は,この学校が好きである。」や、「私は,この学校にいると安⼼して過ごすことができる。」などの4項目で構成されています。

「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究(令和2・3年度調査)」最終報告書
(国立教育政策研究所, 2024)p.32より

本研究で明らかになった「学校とのつながり」の重要性

国立教育政策研究所の調査は、令和2年から令和3年までの期間で40校に対して4回実施され、各回で約17000人の生徒から回答がされました。

「学校とのつながり」といじめ加害経験との関連性はロジスティック回帰分析にて検証され、結果として以下の内容が示されています。

全ての調査時点において「学校とのつながり」の尺度得点が⾼いほど,いじめ加害経験の報告が少ないことが⽰された。この⼀貫した結果は,「学校とのつながり」の強さが,⽣徒のポジティブな⾏動様式を促す可能性を⽰唆しており,良好な学校⾵⼟の形成に向けた⽣徒指導の有効性を⽀持するものである。
「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究(令和2・3年度調査)」最終報告書
(国立教育政策研究所, 2024)p.50より

この結果から、「学校とのつながり」に関する生徒の意識を育むことが、いじめの加害の未然防止になりうることが示唆されています。

「学校とのつながり」には大人から守られている実感が重要

国立教育政策研究所の研究では、「学校とのつながり」を育むにはどのようなことが重要となるかについても分析がされています。

「学校とのつながり」を育むには,生徒が学校の大人をどのように認識しているかが重要であり,特に,大人からのあたたかみや思いやりの実感と大人は自分たちを守ってくれる存在だという実感がポイントになりうることが示唆された。
「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究(令和2・3年度調査)」最終報告書
(国立教育政策研究所, 2024)より

学校において、教員を中心とした大人がしっかりといじめ対策などを行い、生徒にその姿勢を見せることによって、生徒は「学校とのつながり」を良好なものに感じるというわけですね。

「学校とのつながり」に繋がる様々な要因

「学校とのつながり」に繋がる要因に関しては、様々なものが挙げられています。

「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究(令和2・3年度調査)」最終報告書
(国立教育政策研究所, 2024)p.46より

これらのうち、「教師⽀援」は、⽣徒が学校の⼤⼈からあたたかみや思いやりを実感し、親和的な⼈間関係を経験していることを指します。

「保護的規律」は、学校の⼤⼈は⾃分を守ってくれる存在であると認識していることを意味します。

これら2つは⽣徒が教員側をどのように認識しているかを評価しており、教員の努⼒と意識によって変わり得る学校保護要因と述べられています。そして、これらが「学校とのつながり」に影響を与えることが調査により判明しました。

・⽣徒調査の共分散構造分析の結果から,「学校とのつながり」に対して「教師⽀援」と「保護的規律」は直接的⼜は間接的に影響を及ぼしていることが⾒出された。
「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究(令和2・3年度調査)」最終報告書
(国立教育政策研究所, 2024)p.90より

この結果は、今後のいじめ対策を考えていくうえでも、重要な指針になり得るかと思われます。

生徒に対し、学校はいじめ対策を中心とした支援と規律をアピールしていく必要があるわけですね。これはいじめ防止対策推進法により、学校いじめ対策組織に求められている役割とも一致します。

「教師⽀援」・「保護的規律」の尺度

「教師⽀援」・「保護的規律」尺度もCalSCHLSの児童⽣徒⽤調査であるCHKSを参考に作成されており、それぞれ5項目と4項目で構成されています。

「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究(令和2・3年度調査)」最終報告書
(国立教育政策研究所, 2024)p.34より

これらの項目の内容を参考に、生徒が教師の支援や保護的規律について良好な認識が持てるよう、学校全体で取り組んでいく必要があります。

まとめ

いじめの防止のためには、子どもたちが「この学校が好きだ」「自分はここで守られている」と感じることが重要であることが、国立研究機関による最新の研究から明らかになっています。

また、学校とのつながりや学校風土を意識的に育むことは、いじめを減らすだけでなく、子どもたちが心豊かに成長できる社会を築くための基盤です。

子どもたちが安心して過ごせる学校環境を作るためには、学校いじめ対策組織が中心となって積極的にいじめ対策活動をアピールし、いじめを許さない学校風土を育むことが求められます。

そのためにまずは、教員一人ひとりが法律や方針に関する正しい知識を持ち、組織的にいじめ予防を進めていかなくてはなりません。今後、教員や組織に求められる具体的な特性の解明が求められます。

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この記事を書いた人

いじめ対策Web代表。主な経歴に公立高等学校教員やライティング業など。徳島県出身。
現在は博士号の取得に向けて大学院に在籍中。

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