いじめの拡散は悪いことか|SNSへの動画投稿、特定とその後

いじめの現場を撮影した動画がXなどのSNSに投稿される、というニュースを目にしたことがある人は多いと思います。

被害者本人が助けを求めて投稿するケースもあれば、逆に加害者側がいじめの様子を面白半分に流すケースまで、その形はさまざまです。

動画が拡散されると、加害者を糾弾するコメントや、加害者の特定作業が始まり、学校名や氏名が出回るという展開が続くことも珍しくありません。

結果として全国的なニュースになったり、教育委員会が記者会見を開いたりといった事態にもなっています。

2025年のいじめ拡散の流れを受けて、文部科学省からも「SNS 上における暴力行為等の動画の投稿・拡散を受けた緊急の対応等について」という声明も出されています。

このいじめの拡散という方法は、果たしていじめ解決のために良い行為なのでしょうか。それとも別の問題を生み出しているだけなのでしょうか。

単純に善悪を決められる話ではありませんが、この記事ではSNSによるいじめの拡散という現象が何をもたらすのかを考えていきます。

目次

なぜいじめの動画がSNSで拡散されるのか

いじめの拡散

なぜ、いじめの動画がSNSに投稿されることが社会的に広まったのでしょうか。

一つには、スマートフォンの普及によって誰でも手軽に動画を撮影・投稿できるようになったという環境の変化があります。

以前であれば、いじめの現場を目撃しても、それを広く社会に伝える手段は限られていました。

しかし、それ以上に、学校や教育委員会への不信感といった背景があるようにも思われます。

学校や教育委員会への不信感

被害者側がいじめをSNSで拡散する理由の背景に、学校や教育委員会への不信感が考えられます。

相談しても動いてくれなかった、いじめを認めようとしなかった、という経験を持つ被害者や保護者が、公的な手続きではなく社会的な圧力に頼ろうとする構図があるのではないでしょうか。

学校や教員がいじめを抱え込むという問題は、いじめ重大事態の調査報告書でも繰り返し指摘されています。

担任が一人で解決しようとして組織的な対応が遅れた結果、取り返しのつかない事態になった事例は、残念ながら数多く存在します。

そういう現実があるからこそ、動画投稿という手段を選んだ人を単純に責めることはできません。追い詰められた末の行動であることも、多くの場合において事実だからです。

いじめ動画の拡散は告発として機能している

先に挙げたように、いじめの事実が隠されてしまうケースは、残念ながら少なくありません。学校や周囲が適切に対応しないまま、問題が放置されることもあります。

そのような状況の中で、SNSによる拡散は告発の手段として機能します。

実際、いじめや暴行の動画がSNSで広まったことで、問題が明るみに出て対応が進んだケースもあります。拡散によって、これまで見過ごされていた事実が社会に認識されることもあります。

また、誰かが見ているという状況は、加害行為の抑止にもつながる可能性があります。

このように考えると、拡散は一種の正義の行為のようにも感じられます。

しかし、動画の拡散により被害者や加害者などの関係者の特定が進み、それに伴うリスクがあることにも目を向けなくてはなりません。

いじめ問題のSNSでの拡散・炎上とその後

2025年から、SNSでのいじめの事実や動画の拡散が相次いでいますが、炎上のその後について見ていきたいと思います。

広陵高校のいじめ問題に関する炎上とその後

2025年にいじめ問題が炎上した件で有名なのは広陵高校の野球部に関する事件で、甲子園の辞退にもなったことで話題にもなりました。

Yahoo!ニュースの記事『「被害者」も救われない。広陵高校・暴力問題で露呈した“SNS告発”“ネットリンチ”の大問題』によれば、以下のように述べられています。

SNSでの告発と、その後に起きた誹謗中傷の嵐は、広陵高校や「加害者とされた」生徒がダメージを受けたのみならず、無関係の部員や生徒も被害を被った。それだけでなく、被害者(あるいは被害者とされている)生徒やその保護者さえも、幸せになるどころか、より泥沼に陥っている。
西山守氏『「被害者」も救われない。広陵高校・暴力問題で露呈した“SNS告発”“ネットリンチ”の大問題』より

元部員による第三者委への被害申告は88件にのぼるとのことですが、記事によれば、「加害者とされる」生徒からの刑事告訴もされているとのことで、複雑な事態になっていることが推察されます。

坂井高校の暴力動画に関する炎上とその後

福井県立坂井高校の暴力動画に関しては、暴露系アカウントのデスドルノートがSNSのXで投稿したことで一気に拡散されました。

「DEATHDOL NOTE(デスドルノート)」は、芸能人やインフルエンサーのスキャンダル・炎上案件・内部告発を扱う暴露系アカウントです。

デスドルノートは「いじめ撲滅委員会」と称して、いじめに関する情報提供を呼びかけており、様々ないじめに関する動画や情報を拡散しています。

坂井高校の暴力動画については、Yahoo!ニュースの記事『いじめとして晒された動画、両者合意の暴力行為だった? 暴露系アカウントによる私刑の問題点が浮き彫りに』にて以下のように述べられています。

声明によると、動画は2023年に撮影されたもので、映っている2人はすでに在籍していないとのことです。
また、暴力を振るった人、振るわれた人ともに警察に相談しており、動画の拡散は不本意であること。そして振るわれた本人が削除をDEATHDOL NOTEに対して求めたとのことです。
篠原修司氏『いじめとして晒された動画、両者合意の暴力行為だった? 暴露系アカウントによる私刑の問題点が浮き彫りに』より

この事件に関しては、記事内でも述べられていますが、SNSによる社会的私刑の弊害やリスクが浮き彫りになった事件のようにも思われます。

いじめの拡散、特定によるリスク

いじめの動画が拡散されると、多くの場合、加害者の特定という現象が起きます。

制服や背景から学校が割り出され、顔や声から個人が特定され、実名や住所がさらされる。この流れはSNS上では驚くほど速く、数時間のうちに完了してしまうことさえあります。

誹謗中傷や攻撃が周辺の人間にまで及ぶ

いじめ動画が拡散され、いわゆる炎上した際には、多くの人間からの攻撃対象となります。

特定した情報をもとに、加害者への批判・中傷が集中し、場合によっては加害者の家族にまで及びます。

学校の電話が鳴り止まなくなる、教師の個人情報まで出回る、ということも起こりえます。

これを見て、当然の報いだと感じる人は多いでしょう。

確かに、いじめという行為は断じて許されるものではありません。ただ、無関係の人間に危害が加えられるリスクは看過できませんし、特定とその後の動きが本当に問題の解決に向かっていないことも考えられます。

特定と炎上でいじめ問題は解決できるのか

特定と炎上という流れが、いじめ問題そのものの解決につながるかというと、かなり疑問があります。

まず、加害者への攻撃が集中しても、被害者の状況が改善されるわけではありません。

被害者が今どういう状況にあるか、何を求めているか、どんな支援が必要かという視点は、炎上の過程でほとんど置き去りにされます。

加害者の特定が進んだことで、加害者側の保護者が精神的に追い詰められたり、弟や妹など関係のない家族が学校でつらい思いをしたりすることもあります。いじめをいじめで返しているような構図になってしまうことも、否定できません。

さらに、被害者にとっても、動画が広まることが必ずしも望ましいとは限りません。

自分がいじめられている場面が不特定多数に見られているという状況は、被害者にとってさらなる苦痛になることがあります。コメント欄の同情や怒りの言葉が、被害者を消耗させるケースも考えられます。

間違った情報、事実が歪められることも

SNSで広まる情報は、必ずしも正確とは限りません。

動画や画像は一部だけが切り取られていることが多く、前後の文脈が分からないまま、いじめと断定されてしまうこともあります。

さらに、誤情報や憶測が混ざりやすく、一度広まると訂正が難しいという特徴もあります。人は拡散された情報を安易に正しいと信じてしまいやすいものです。

つまり、拡散は真実を伝える手段であると同時に、誤解を広げる装置にもなり得るのです。

拡散に頼らずにいじめ解決を目指すなら

拡散に頼らずに解決を目指すとき、どういった手段があるのでしょうか。

まず、学校への相談という入口を最大限に活かすことが基本です。

学校への相談によるいじめの解決

担任に相談しても動かない場合、学年主任や教頭、校長へと相談先を広げることが有効です。

いじめ防止対策推進法によって、各学校にはいじめ対策組織の設置が義務づけられています。

その組織に対して、正式に申し立てを行うことが、学校を動かす一つの手段となります。

なお、学校に相談したからといって、他の機関に相談してはいけないわけでもありません。多くの人の手を借りて、色々な手段を駆使しながら解決を目指すというのも有効です。

教育委員会や警察への相談

学校が動かないと感じたとき、教育委員会への相談は有力な選択肢です。

教育委員会は学校を指導・監督する立場にあり、学校が適切な対応を取るよう働きかけることができます。

文部科学省の24時間子供SOSダイヤル、各都道府県の相談窓口なども、相談先として使えます。

状況によっては、警察や弁護士への相談も選択肢に入ります。いじめが傷害や恐喝、器物損壊といった犯罪行為を含む場合、法的な対応が最も実効的な解決につながることもあります。

いじめに関する動画の活用方法

いじめの事実を拡散することと、記録として保持することは、まったく別の話です。

SNSに投稿された情報は、完全に消すことが難しいと言われています。いわゆるデジタルタトゥーとも呼ばれます。

いじめに関する記録や証拠として使える

いじめ動画をSNSに投稿して不特定多数に見せることと、適切な機関に提出することの間には、大きな違いがあります。

いじめの証拠となる動画や画像は、学校や教育委員会への申し立て、法的手続きにおいて、重要な証拠になります。

証拠を持っていることは、被害者側の主張を強くするために大きな意味を持ちます。

問題を解決したいという目的のために動画を使うのであれば、拡散よりも証拠提出という選択の方が、実際的な効果は高いと考えられます。

まとめ

いじめの動画をSNSに投稿し、加害者を特定して社会的に批判する、という流れは、学校や教育委員会を動かす一定の効果を持つことがあります。

しかし同時に、誤情報による無関係者への被害、被害者へのさらなる傷つき、投稿者自身の法的リスク、感情的な制裁による解決の遠のき、といった問題も生み出します。

拡散が悪いかどうかという問いに答えるよりも大切なのは、何が被害者の状況を本当に改善するかを考えることではないでしょうか。

正義感は大切です。いじめを見て見ぬふりをしない姿勢は、傍観者を仲裁者に変えるという意味でも、社会に必要なものです。

ただその正義感を、最も効果的な形で使うとしたら、無秩序な拡散よりも、証拠の確保と適切な機関への相談という方向に向けることが、多くの場合において被害者のためになると思います。

動画を見て怒りを感じたとき、その怒りをSNSに向けるのではなく、解決に向けた一歩に変えることができるかどうか。それが、いじめ問題に関わるすべての人に問われていることだと思います。

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この記事を書いた人

いじめ対策Web代表。主な経歴に公立高等学校教員など。徳島県出身。

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