「いじめ」という言葉は日常でもよく使われますが、法律上は明確な定義が定められています。
特に学校現場での対応は、法律上での定義を基準に判断されるため、正しく理解しておくことがとても重要です。
いじめの定義に関してはこれまで変遷もあったため、当事者間や周囲で認識のズレが生じることも少なくありません。
本記事では、いじめ防止対策推進法(2013年施行)に基づく最新のいじめの定義を、初めて学ぶ方でもわかりやすいように解説します。

いじめとはどのような行為を指すのか、大人も子どもも、しっかりと理解しておくことが重要です。
最新のいじめの定義と具体例
いじめの定義とは、簡単に言えば、「心理的または物理的な影響を与える行為であって、被害を受けた方が心身の苦痛を感じているもの」をいいます。


いじめの定義の根拠となるのは、平成25年(2013年)9月に施行されたいじめ防止対策推進法です。この法律の第2条による、正確ないじめの定義は以下になります。
第2条
この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
「いじめ防止対策推進法」より



心理的な影響を与える行為には、当然、悪口やいじりなども含まれます。
現在ではSNSやLINEグループにおける、悪口や嫌がらせといった行為も多いため、「インターネットを通じて行われるものを含む」という一文が明記されています。そのため、SNSなどでの悪口もれっきとしたいじめと判断されます。
また、起こった場所は学校の内外を問わないこととなっているため、学校外で起きたことも当然いじめと判断されます。
現行のいじめの定義は、非常に広く設定されている
いじめ防止対策推進法に基づくいじめの定義は、非常に広く設定されています。
この広い定義の意図としては、やはりいじめ被害に苦しむ児童生徒をしっかりと認知し、解決に繋げていこうという考えがあると思われます。
例えば、いじめた側の子どもが「遊びだった」「ノリでやった」「喜んでると思った」などと主張するのはよくあることです。
しかし、そんな加害者側の言い分に惑わされることなく、いじめられた側の気持ちを最優先し、いじめ被害者を守っていこうという意思を示したのが、現行のいじめの定義となっています。



何かをされた側の子どもが、つらいと思ったら、それはいじめです。
いじめ行為の具体例


いじめ行為の具体例については、いじめ防止対策推進法に基づき策定された、「いじめの防止等のための基本的な方針」(国の基本方針)に、以下のように掲載されています。
具体的ないじめの態様は,以下のようなものがある。
・ 冷やかしやからかい,悪口や脅し文句,嫌なことを言われる
・ 仲間はずれ,集団による無視をされる
・ 軽くぶつかられたり,遊ぶふりをして叩かれたり,蹴られたりする
・ ひどくぶつかられたり,叩かれたり,蹴られたりする
・ 金品をたかられる
・ 金品を隠されたり,盗まれたり,壊されたり,捨てられたりする
・ 嫌なことや恥ずかしいこと,危険なことをされたり,させられたりする
・ パソコンや携帯電話等で,誹謗中傷や嫌なことをされる 等
「いじめの防止等のための基本的な方針」p.5より
これらはあくまで一例に過ぎず、その他の行為であっても、被害を受けた児童生徒が心身の苦痛を感じているものであればそれはいじめとなります。
ただし、本人がいじめられていることを否定する場合も多々ありますので、当該児童生徒の表情や様子をきめ細かく観察しつつ、特定の教職員のみによることなく学校いじめ対策組織を活用していじめの認知を行わなくてはなりません。


いじめには警察に連絡すべき犯罪行為も含まれる


最新のいじめの定義は広く設定されているため、犯罪行為もいじめの中に含まれます。
悪質ないじめに対し、「いじめではなく犯罪ではないか?」という意見もSNSなどで見かけますが、正しくは「いじめでもあり犯罪でもある」が答えとなります。
また、悪質な行為や犯罪行為があったときは、当然すぐに警察に連絡しなければなりません。
実際に、「いじめの防止等のための基本的な方針」(国の基本方針)において、以下のような記述があります。
これらの「いじめ」の中には,犯罪行為として取り扱われるべきと認められ,早期に警察に相談することが重要なものや,児童生徒の生命,身体又は財産に重大な被害が生じるような,直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる。これらについては,教育的な配慮や被害者の意向への配慮の上で,早期に警察に相談・通報の上,警察と連携した対応を取ることが必要である。
「いじめの防止等のための基本的な方針」p.6より



いじめだからといって学校が全て対応する必要は無く、悪質なものはすぐに警察に連絡することが重要です。
いじめの定義はおかしい・広すぎるとの批判も
いじめの定義が広いことの意図としては、前述したように、いじめ被害に苦しむ児童生徒をしっかりと認知しようという考えがあると思われます。
しかし、広すぎる定義に対し、「おかしい」という批判や、戸惑いの声もあるようです。
広い定義によりいじめ加害者にされてしまうリスク
Yahooニュースの記事である『いじめ、もう一つの問題:広すぎる定義に戸惑う学校、保護者、子供』(執筆:碓井真史氏)では、以下のような指摘もされています。
被害者保護のためには、いじめの定義は広いほど良いでしょう。しかし、現在の定義はあまりに広すぎて、かえって使いにくいという現場の声もあります。
この定義にそのまま従ってしまえば、あたたかでユーモラスな笑いも、アンパンマンがバイキンマンに説教するような乱暴な子への抗議の言葉も、ほんのちょっとした正しい注意も、相手が傷ついたと言えば、すべて「いじめ」になりかねません。
Yahooニュース『いじめ、もう一つの問題:広すぎる定義に戸惑う学校、保護者、子供』より
確かに、現行のいじめの定義では、傷つけられたと意思表示すれば相手をいじめ加害者にすることが容易にできかねません。
不当にいじめっ子にされてしまい、苦しんでいる親子もいます。いじめっ子とされてしまえば、声をあげることは難しくなってしまいます。
Yahooニュース『いじめ、もう一つの問題:広すぎる定義に戸惑う学校、保護者、子供』より
いじめの認知・判断は組織的に行う
現在のいじめの定義は非常に広いものであり、被害者の保護を優先した結果、前述したようなリスクも存在します。
その事実を踏まえたうえで、大人がいじめを認知・判断する時には、個人で行うのではなく組織的に行う必要があります。
また、いじめられた児童生徒の立場に立って判断することに加え、状況を客観的に確認することも重要です。
個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は,表面的・形式的にすることなく,いじめられた児童生徒の立場に立つことが必要である。
この際,いじめには,多様な態様があることに鑑み,法の対象となるいじめに該当するか否かを判断するに当たり,「心身の苦痛を感じているもの」との要件が限定して解釈されることのないよう努めることが必要である。例えばいじめられていても,本人がそれを否定する場合が多々あることを踏まえ,当該児童生徒の表情や様子をきめ細かく観察するなどして確認する必要がある。
ただし,このことは,いじめられた児童生徒の主観を確認する際に,行為の起こったときのいじめられた児童生徒本人や周辺の状況等を客観的に確認することを排除するものではない。
なお,いじめの認知は,特定の教職員のみによることなく,法第22条の学校いじめ対策組織を活用して行う。
「いじめの防止等のための基本的な方針」p.4-5より



被害者の気持ちを尊重することが重要ですが、安易な決めつけを行うことなく、複数人で慎重に判断しなくてはなりません。
いじめの定義が広いことでおかしいと思う人もいるのは事実ですが、学校や大人たちがしっかりと正しい対応をすることで、現行のいじめの定義が不本意な使い方をされることを防ぎ、よりよく活用をしていくことができるはずです。
日本におけるいじめの定義の変遷
これまでいじめの定義は、日本において度々移り変わってきています。
文部科学省による「いじめの定義の変遷」の資料によれば、昭和から平成にかけていじめの定義は以下のように変遷しています。
昭和61年度からのいじめの定義
昭和61年度において、いじめの定義は「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」において策定されていました。その定義は以下の通りです。
「いじめ」とは、
「①自分より弱い者に対して一方的に、
②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、
③相手が深刻な苦痛を感じているものであって、
学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないもの」とする。
「いじめの定義の変遷」(文部科学省)より
当時のいじめの定義は、現行のいじめの定義よりもかなり狭いものでした。
平成6年度からのいじめの定義
平成6年度からのいじめの定義は、以下のように変更されています。
「いじめ」とは、
「①自分より弱い者に対して一方的に、
②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、
③相手が深刻な苦痛を感じているもの。
なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」とする。
なお、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。
「いじめの定義の変遷」(文部科学省)より
昭和61年度のいじめの定義と比べて、「学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの」という一文が削除されました。
代わりに、「いじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと」という一文が追加されています。
平成18年度からのいじめの定義
平成18年度からのいじめの定義は、以下のように変更されています。
個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。
「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。
なお、起こった場所は学校の内外を問わない。
「いじめの定義の変遷」(文部科学省)より
このころの定義は、「一方的に」「継続的に」「深刻な」といった基準が削除され、現行の定義とほぼ変わらないものになってきています。
いじめ重大事態の定義
いじめの中でも、いじめによって被害児童生徒の学校生活や心身に極めて大きな影響を及ぼす事態のことを、重大事態と呼びます。
いじめ防止対策推進法の第28条第1項では、以下のいずれかに該当する事態を、重大事態と定義しています。
1号重大事態(生命心身財産重大事態)
いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
2号重大事態(不登校重大事態)
いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
なお、「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」によれば、事実関係が確定した段階を重大事態と呼ぶのではなく、「いじめにより重大な被害が生じた疑い」、「いじめにより相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑い」の段階を重大事態と言い、疑いの段階から対応を開始することを認識する必要があります。
また、重大事態の判断を行うのは、学校の設置者または学校とされています。
さらに詳しいいじめ重大事態の定義については、以下の記事をご覧ください。


まとめ
いじめかどうかを判断するための核心は、その行為を受けて本人が苦痛を感じているかどうかです。
いじめは、大人が早く気付くことで深刻化を防ぐことができます。教職員がいじめの定義についてしっかりと知ることで、早期発見ができたり対応が統一されることが期待できます。
また、被害を受けた児童生徒側がいじめの定義について正しく知ることで、いじめの相談がしやすくなる効果も期待されます。
学校関係者や保護者だけでなく、法律に基づくいじめの定義を理解することは、全ての人々がいじめの早期発見・解決に貢献するための第一歩となります。
いじめの定義を正しく理解し、子どもを取り巻く環境の小さな変化にも気づけるようにしていきましょう。
いじめの定義が示されているいじめ防止対策推進法について詳しくは、以下の記事をご参照ください。











