漫画「3月のライオン」に学ぶ、いじめへの対応で重要なこと

3月のライオン×文部科学省
© 羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

いじめを題材にした漫画やアニメはたくさんありますが、中でも私が特に好きな作品である「3月のライオン」をご紹介します。

3月のライオンは将棋をテーマとした人間ドラマですが、ストーリーの中盤にいじめ問題が取り上げられています。

3月のライオン いじめ
© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」5巻(52話)より

いじめの発生から解決に至るまでが細かくリアルに描かれており、いじめ問題を考えるうえで学ぶべき部分も多くあります。

2017年にはアニメ3月のライオンと文部科学省のコラボレーション企画が実施され、全国の中学校と高等学校にポスターも送られました。

本記事では、3月のライオンで描かれたいじめ問題を題材とし、いじめへの対応で重要なことを考えていきます。

いじめ問題について、漫画で考える良い機会です。子どもから大人までぜひ原作の方もご一読ください。

※アイキャッチ画像は、「3月のライオン×文部科学省」コラボレーションページより、メッセージポスターからお借りしています。

目次

3月のライオンが実話を基に描く「いじめ問題」

3月のライオンのいじめに関するストーリーは、作者の姪にまつわる実話のエピソードが基になっているようです。

登場人物の一人である川本ひな(ひなちゃん)が、友達がいじめの被害を受けて転校してしまった後、その標的になってしまうというエピソードです。

いじめから友達を庇うということ

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」5巻(52話)より

平穏だったクラスにも、いじめは突然発生することがあります。

優しくおとなしいクラスメイトのちほちゃんが、謂れの無い理由でいじめの標的となりますが、ひなちゃんは庇い続けます。

いじめに関わる集団では、いじめの四層構造が見られると広く言われています。

周囲の多くが観衆や傍観者となる中、ひなちゃんは被害者の助けになろうと努力しました。

いじめの四層構造においては、傍観者を仲裁者(いじめを止めようとしたり否定的な反応を示す人)に変えることが重要だと言われています。

しかし、自分がいじめの標的になるのではというリスクから、なかなかいじめから庇うということは難しいものです。

実際にちほちゃんは転校してしまい、残されたひなちゃんは一人いじめの標的となってしまいます。

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」5巻(52話)より

いじめから友達を庇うということは非常に勇気がいることであり、多くの子どもが傍観者となるのも無理のないことです。

学校のクラスという閉鎖的な空間では、集団内の凝集性が高く、同調性(付和雷同的な行動様式)が高まると言われています。(田中(2009)「いじめ発生及び深刻化のシステム論的考察」より)

ひなちゃんは自分もいじめられるかもしれないという恐怖を感じながら、それでも信じる正義を貫いて友達を庇い続け、それを間違っていないと強く言い切ります。

担任の抱え込み、いじめの過小評価

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」6巻(54話)より

ひなちゃんは、友達のちほちゃんがいじめられている段階で担任教師へと相談していました。

しかし担任は問題を過小評価し、いじめとして認知しようとしませんでした。当然、他の先生へも情報共有はせず、情報の抱え込みを行っていたものと思われます。

このように担任や顧問など一部の教師の抱え込みによって、いじめが長期的に続き重大化してしまうケースは多く報告されています。

担任がいじめを抱え込み、適切に対応しないことで、相談した生徒の失望や無力感に繋がります。

作中でも担任が不適切対応をしたことで、ひなちゃんは学校や先生には頼れないと感じてしまったのだと思われます。一種の学習性無力感というわけですね。

描かれるスクールカースト

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」6巻(56話)より

3月のライオンでのいじめ場面はリアルに描かれていると思うシーンの一つが、このスクールカーストに関する描写です。

スクールカーストとは、クラスの閉鎖的なグループ間に見られる、認識された人気に基づく上下関係の階層構造です。(小原一馬, 2022「スクールカーストはなぜ生まれ、それは「悪い」ものになってしまうのか―スクールカースト生成の歴史的要因と上位者の攻撃性が高まる要因の考察―」より)

クラス内で目立つグループによるいじめがあると、作中でひなちゃんが感じているように、なおさらスクールカーストのプレッシャーがひどく感じられるのだろうと思います。

スクールカーストはいじめの温床となることから、クラス内にこのような雰囲気が生まれないようにするための教師の働きかけが重要です。

学校の組織的な介入による解決

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」7巻(70話)より

担任の先生がいじめによる心労で倒れたことをきっかけに、本格的に学校の組織的対応が始まります。

学年主任が担任となり、保護者や他の先生も交えつついじめを解決していきます。

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」7巻(69話)より

いじめの証拠が無いという加害者の保護者に対し、いじめでは証拠がないのが当たり前と断じて、毅然とした態度で対応をするシーンが印象的です。

いじめへの対応で重要なこと

今回の3月のライオンのいじめシーンにおいて、問題となったのはやはり担任の抱え込みになります。

いじめに対して学校は組織的に対応しなければならないことが、国の法制では定められています。

しかし、今回のように、担任が頼りにならなかった場合はどうすれば良かったのでしょうか。

他の先生に話し、組織的に対応してもらう必要があった

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」6巻(60話)より

主人公の高校の担任が言っているように、いじめの相談は必ずしも担任に行う必要はありません。

学校の教職員は、いじめに関する情報を入手した場合、学校いじめ対策組織における情報集約担当の教員に報告する必要があります。

しかし様々な理由から、情報共有がしっかりと行われない場合もあります。そのため、ちゃんと組織的に対応してくれるように信頼できる先生に相談したり、複数人の先生に相談することが大切です。

学校側もいじめ対策組織による相談先をアピールする必要がある

各学校に設置されている学校いじめ対策組織の役割として、いじめの相談・通報を受け付ける窓口となる必要があることが定められています。

学校いじめ対策組織は、いじめを受けた児童生徒を徹底して守り通し、事案を迅速かつ適切に解決する相談・通報の窓口であると児童生徒から認識されるようにしていく必要がある。
「いじめの防止等のための基本的な方針」p.27 より

しかしながら、上記のことが十分にできている学校は少ないと思われます。

今回の3月のライオンの事例のように、いじめの相談は担任にするものという風潮が根強く残っています。

学校は学校いじめ対策組織の相談窓口としていじめに詳しく頼りがいのある先生を配置し、それを生徒に周知することで、担任がいじめを抱え込み明るみに出ないというような事例を防ぐことができます。

形式的な謝罪は意味がない。被害者はいじめ加害者を許す必要は無い

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」7巻(70話)より

組織的対応が始まった後、クラスに向かって加害者全員の謝罪が行われました。

それに対しひなちゃんは、加害者に何の罰則も無く、謝ったら許されるくらいの事で友達が転校しなきゃいけなかったというのは、やり切れないという語ります。

ひなちゃんの言うことはその通りで、形式的な謝罪には意味がありません。また、被害者はいじめ加害者を許す必要はありません。

形式的に謝罪で解決させようとすることの問題性は多くの研究者が指摘しており、当事者同士で話し合いをさせた後の被害者の自殺は多く見られるという報告もあります。(千葉孝司, 2013「いじめは絶対ゆるさない:現場での対応から予防まで」より)

実際に2026年のニュースで、「高校は加害側から生徒への謝罪の機会を設けましたが、女子生徒はその日の夜に大量に服薬」したとの報道もあります。(KKT NEWS NNN(2026). 『グループLINEで「きも」など県立高でいじめ 加害側から謝罪後被害生徒が大量服薬』より)

謝罪をさせること自体は必ずしも悪いというわけではありませんが、それで安易に解決としたり、被害者に無理やりに納得を迫ったりというようなことは絶対にしてはいけません。

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」7巻(70話)より

作中でも謝罪をさせた後、それで解決とせずに、加害者を何度も呼び出し長期的に反省させています。

いじめへの対応は非常に難しく、被害者の心のケアはもちろんのこと、加害者にどのように処罰を与えるかということは学校が組織的かつ念入りに考えなければいけません。

3月のライオンのいじめエピソードは何巻の何話からか

漫画「3月のライオン」のいじめに関するストーリーは、第5巻の51話(Chapter51「てんとう虫の木①」)から本格的に始まります。

ただし50話(Chapter50「六月」)のラストシーンでも、ひなちゃんがいじめに苦しんでいる兆候が暗に描かれていますので、見返したい方は50話からをおすすめします。

新しく興味を持った方でいじめに関係する話だけ読みたいという方もいるとは思うのですが、やはり1巻~5巻までで登場人物の背景など知っておいた方がより共感できるかと思いますので、初めから読むことをおすすめします。

なお、いじめ問題に関わるストーリーは、第7巻の71話(Chapter71「日向」)で一旦の区切りという形になっています。

アニメ「3月のライオン」のいじめエピソードは何話からか

TVアニメ「3月のライオン」では、第25話(第2シリーズ第3話)からいじめに関するストーリーが始まり、第35話(第2シリーズ第13話)まで続きます。

個人的には漫画で読むことをおすすめしたいですが、アニメも良い出来になっていますので、興味のある方はぜひ視聴なさってみてはと思います。

まとめ

3月のライオンに描かれているいじめのエピソードには、いじめという問題に対して私たちがどのように向き合うべきか、そして周囲の大人や社会がどのように関わるべきかという重要な示唆が含まれています。

いじめへの対応において、学校や教師に求められる最も重要なことのひとつは、子どもが「いじめから助けてもらえる」と感じられる存在になることです。

そのためには個人がいじめに対応するのではなく、学校いじめ対策組織を中心として組織的に対応をすることを、あらかじめ生徒全員にはっきりと示しておかなくてはなりません。

今回取り上げた3月のライオンは、いじめという重いテーマを、説教やスローガンではなく、人間の物語として語ります。

また、いじめという問題の残酷さを伝えるだけではなく、人が人を支えることの力や、誰かが勇気を持って行動することで状況が少しずつ変わっていく可能性も描かれています。

© 羽海野チカ・白泉社 「3月のライオン」7巻(69話)より

学校というのは時に温かく、時に残酷な場所です。クラスという閉鎖的な環境に生徒たちを押し込め、そこでのトラブルや衝突も、社会経験や教育的なものとして見なされることも少なくありません。

ひなちゃんが学校を「こんな所」と表現する気持ちも分かるというものです。

学校という群生秩序がはびこる閉鎖空間の中で、私たち一人ひとりに何ができるのか。3月のライオンと本記事が、皆さんの考える一助になれば幸いです。

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この記事を書いた人

いじめ対策Web代表。主な経歴に公立高等学校教員など。徳島県出身。
ユニセフ・マンスリーサポーター。2025年紺綬褒章受章。

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