学校いじめ対策組織の役割とは|いじめをなくすために必要な組織的対応

学校いじめ対策組織の役割とは

2013年(平成25年)成立のいじめ防止対策推進法の第22条により、各学校には「いじめの防止等の対策のための組織」を置くことが義務付けられています。

この組織は通称、学校いじめ対策組織」や「学校いじめ対策委員会」などと呼ばれます。学校によって名称は様々に付けられていますが、本記事では学校いじめ対策組織という名称で統一します。

現在のいじめ対策を含めた生徒指導においては、この学校いじめ対策組織を中心とした、組織的対応が肝要であると言われています。

生徒指導提要においても、児童生徒の発達上の課題や問題行動の多様化・深刻化が進む中で、「共通理解に基づく組織的対応を行うことの必要性が高まっています。」との記載が認められます。
(p.88, 第3章 チーム学校による生徒指導体制より)

本稿では、これからのいじめ対策において学校いじめ対策組織に求められる役割と、いじめをなくすために必要な組織的対応について解説します。

目次

学校いじめ対策組織に求められる役割

文部科学省による「いじめの防止等のための基本的な方針」によれば、学校いじめ対策組織に求められる役割は多岐に渡ります。主なものをピックアップして、詳しく見ていきましょう。

いじめの未然防止の役割

・「いじめの未然防止のため,いじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりを行う役割
いじめの防止等のための基本的な方針」p.26 より

いじめ対策において、未然防止(一次予防)が重要なのは広く言われていることです。

学校いじめ対策組織は、学校内におけるいじめの未然防止のために、環境づくりを行わなくてはなりません。

学校いじめ対策組織を周知する必要がある

いじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりを実効的に行うために、学校いじめ対策組織は「児童生徒及び保護者に対して,自らの存在及び活動が容易に認識される取組を実施する必要がある。」(p.27)と述べられています。

例えば、全校集会の際に、いじめ対策組織の教職員が児童生徒の前で取組を説明するといった例が挙げられています。

要するに、生徒や保護者に対して、学校いじめ対策組織の存在を十分に周知していくことが重要だというわけです。

さらに存在だけでなく、児童生徒をいじめ被害から守るためにどのように支援していくか、という具体的な活動についても周知する必要があると読み取れます。

学校いじめ対策組織の役割

すべての児童生徒が学校いじめ対策組織の存在を知り、さらにいじめ防止のための支援をしてくれているという知覚ができていて初めて、国の基本方針に則ったいじめへの組織的対応ができていると言えるわけですね。

学校いじめ対策組織に、いじめ未然防止の役割があることを知らない教員や学校が認められることは、現在のいじめ対策における大きな問題点です。実際に、過去のいじめ重大事態における調査報告書では、「校長は、『いじめ対策委員会』は保護者や警察からの要請があって開くものであると誤解(令和6年 大阪市) をしていたという報告も挙げられています。教員の間違った認識で生徒の生命が危険にさらされることは、看過できない問題です。

いじめの早期発見の役割

・「いじめの早期発見のため,いじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割
いじめの防止等のための基本的な方針」p.26 より

いじめの相談といえば、担任教師やスクールカウンセラーを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

しかし、国の基本方針によれば、学校いじめ対策組織自体がいじめの相談・通報を受け付ける窓口となることが求められています。

また、「いじめを受けた児童生徒を徹底して守り通し,事案を迅速かつ適切に解決する相談・通報の窓口であると児童生徒から認識されるようにしていく必要がある。」(p.27)と述べられています。

おそらく多くの学校が実施できていない事項ではないでしょうか。

いじめ防止対策推進法の立案に携わった参議院議員の小西洋之氏によれば、以下のような提言もされています。

「被害児童等からの相談が得られない背景には、被害児童等から見て、自らを徹底して守り抜いてくれるとともに加害児童等に対する適切な指導等がなされることで、いじめ事案の解決に必ず結びつくという安心・信頼の相談機能が学校に確立されていないことがあるものと考えられます。」
「いじめ防止対策推進法の解説と具体策」(2014, 小西洋之)より

学校いじめ対策組織による相談体制の整備、およびその周知と信頼の確立は、全学校に徹底すべき事項だと言えるでしょう。

いじめの事案対処の役割

・「いじめの早期発見・事案対処のため,いじめの疑いに関する情報や児童生徒の問題行動などに係る情報の収集と記録,共有を行う役割
いじめの防止等のための基本的な方針」p.26 より

学校いじめ対策組織は、いじめに関する情報の収集・記録・共有をする役割があります。

例えば、定期的にいじめ対策のための会議を開催し、いじめに繋がりそうな情報を収集し、議事録として残しておくといった取り組みが求められます。

これらは組織的対応を確実に進めていくにあたり、重要な取り組みとなります。しかしながら、これも十分にできていない学校の報告が散見されます。

多くのいじめの重大事態調査報告書において、学校いじめ対策組織による会議の記録が残っていなかったという旨の記述を見かけます。また、他の生徒指導委員会などと会議を兼ねており、いじめに関する情報の共有や記録がおろそかになってしまうケースも見られます。

学校いじめ防止基本方針に基づく取組をする役割

・「学校いじめ防止基本方針に基づく取組の実施や具体的な年間計画の作成・実行・検証・修正を行う役割
いじめの防止等のための基本的な方針」p.27 より

学校いじめ防止基本方針は、いじめ防止対策推進法の第13条によって各学校が策定することが定められています。

学校いじめ対策組織は、この学校いじめ防止基本方針に基づき、中核となっていじめ対策を推進していく必要があることが国の基本方針でも述べられています。

学校いじめ防止基本方針は、各学校のホームページへの掲載その他の方法により、保護者や地域住民が学校いじめ防止基本方針の内容を容易に確認できるような措置を講ずることとされています。皆さんの住んでいる地域の学校のホームページでも、学校いじめ防止基本方針の掲載が確認できるかと思います。

また、学校いじめ対策組織は、学校いじめ防止基本方針が当該学校の実情に即して適切に機能しているかについての点検を行う役割もあります。PDCAサイクルを意識し、より実効性の高い取組を実施していく必要があるわけです。

学校いじめ対策組織が形骸化する弊害

前項で学校いじめ対策組織に求められる役割を解説しましたが、各学校において十分に徹底できていないことが危惧されています。

組織が機能していないと、当然ながら国が求めているいじめ対策が十分にできていないことになります。

生徒指導提要では、「いじめへの対応において、組織が効果的に機能していないために重大事態が引き起こされるケースが見られることから、学校内外の連携に基づくより実効的な組織体制を構築することが課題となっています」との記載が見受けられます。

つまり、学校いじめ対策組織の形骸化、不十分な組織的対応がいじめ重大事態を引き起こしていると国が判断していると言っても過言では無さそうです。

多くの重大事態調査報告書で組織の形骸化が指摘

実際に、組織が十分に機能していないことによる弊害はこれまでの重大事態調査報告書で多く指摘されています。

一例として、上尾市で発生した重大事態の調査報告書では、以下のような記述も見られます。

「本いじめ事案が不幸な結果となってしまった大きな要因の一つとして、前述の通り『■中学校いじめ調査委員会』が全くもって機能していなかったことが挙げられる。」(令和5年,上尾市)

その他の調査報告書内におけるいじめ対策組織の形骸化に関する記載に関しては、以下の記事をご確認ください。

いじめをなくすために必要な組織的対応

いじめをなくすために、学校はどのように組織的対応を進めていけば良いのでしょうか。

例えば、以下のような取り組みが考えられます。

いじめをなくすために必要な組織的対応案
・学校いじめ対策組織を主動する役割を担う教員(いじめ対策担当教員)を3名任命
・学校いじめ対策組織メンバーの明確化と全教職員が経験できるようシフトの制定
・学校いじめ対策組織に関する教員用マニュアルの作成と配布
・いじめ対策委員会の定期的開催の徹底
・集会やHRを通じた、生徒に対する学校いじめ対策組織の構成員と活動の周知
・いじめ相談の際のフローチャートの図示、プリント配布やロールプレイによる周知
・保護者に対して学校いじめ対策組織を周知するプリントの配布
・学校ホームページにおける学校いじめ対策組織の積極的認知
・いじめ対策に関する学校目標の設定と、掲示物による周知
・保護者・地域住民・生徒の代表による学校いじめ対策組織への参画
・ビブスを付けたいじめ対策担当教員および協力生徒による巡回 など

これらは、国の基本方針や、外国のいじめ防止プログラムの施策などを参考に私個人が考えたものです。上記のような取り組みを学校が率先して進めていくことで、いじめを否定する集団規範を高めることが期待されます。

学校いじめ対策組織の適切な運用に関わるチェックリスト

学校いじめ対策組織が適切に運用出来ているかを検証するための、チェックリストも作成しました。

学校いじめ対策組織の運用に関わるチェックリスト

チェックリストの各項目については、それぞれ国の基本方針(いじめの防止等のための基本的な方針)などに基づいて作成されています。Word形式でのダウンロードおよび、各項目の詳しい解説については以下の記事をご参照ください。

いじめ対策担当教員の任命について

学校いじめ対策組織を形骸化させないためには、学校いじめ対策組織を中心となって動かしていくリーダー的役割の教員が必要です。名称としては、いじめ対策担当教員などが考えられます。

各学校に1名でも良いですが、例えば中学校であれば1学年に1名として合計3名を任命することで、学年ごとに詳しくいじめに対処することが可能になると考えます。

実際に自治体によっては、様々な名称でいじめ対策に特化した教員の配置を進めているところもあります。

詳しいいじめ対策担当教員の必要性や、実際の自治体による導入事例に関しては、以下の記事をご覧ください。

まとめ:いじめをなくすために

いじめを本気でなくすためには、学校も本気でいじめをなくすための取り組みを行っていく必要があります。

本記事でご紹介した組織的対応への理解、そして学校現場による徹底により、生徒も学校を信頼し、いじめの防止に繋がることが期待されます。

学校いじめ対策組織は、単なる事後対応の組織ではありません。いじめをなくすためには、一次予防(未然防止)の視点が重要です。そのためにも徹底した組織的対応こそが、重要な鍵となります。

学校の教職員一人ひとりが、いじめ対策に関する深い理解が求められます。まずは基本となるいじめ防止対策推進法と、国の基本方針(いじめの防止等のための基本的な方針)についてしっかりと熟読することが求められるでしょう。

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