教師によるいじめの抱え込みを防止する|情報共有と組織的対応がカギ

いじめ問題が続く現代において、教師がいじめを抱え込んで解決しようとし、結果として重大事態に繋がってしまったという事例が後を絶ちません。

しかし、教師の抱え込みは決して悪意ばかりで起こるわけではありません。

いじめを自分で解決しようとする責任感が、かえって組織的対応を遅らせるという皮肉な構造も存在します。

本記事では、なぜ教師はいじめを抱え込んでしまうのか、その心理的な背景や環境的要因を掘り下げます。

抱え込みを防止するための、情報共有や組織対応の重要性についてもご紹介します。

目次

教師によるいじめの抱え込みとは

抱え込み

教師によるいじめの抱え込みとは、いじめの情報を入手しても管理職や組織に報告をせずに、個人の裁量のみで解決しようとする行動パターンを指します。

この抱え込みが継続することで、被害者の苦しみが長期化し、不登校や精神疾患、最悪の場合は自死という取り返しのつかない事態へと連鎖します。

いじめの重大事態における調査報告書でも、初期対応の段階で組織的な共有が行われていなかったというケースが非常に多く指摘されています。

教師の抱え込みに見られる典型的な行動パターン

  • いじめの情報を得ても、報告せず様子を見る
  • 解決したと自己判断し、継続的な観察や支援を終了する
  • いじめアンケートの結果や保護者からの相談を、学校全体の問題として扱わない
  • いじめと認定することを避け、悪ふざけやけんかとして処理する

重要な視点として、抱え込みを行う教師は、必ずしも悪意や怠慢からそうしているわけではないということです。

むしろ、自分が何とかしなければという責任感や、子ども同士の問題に深く関わる抵抗感などから生まれていると思われます。

なぜ教師はいじめを抱え込んでしまうのか

教師が抱え込みに陥るメカニズムについて、個人の心理的要因や、学校文化に根ざした環境的要因を考えていきます。

教師がいじめを抱え込む心理的要因

教師の抱え込み

教員がいじめを抱え込む心的要因として、以下のようなものが考えられます。

  1. 担任や顧問の責任感
  2. 矮小化バイアス
  3. 報告や共有への抵抗感
  4. 自分が解決できるという過信

①担任や顧問の責任感

日本の学校文化では、学級内の問題は担任が責任を持つという規範が根強くあります。

この文化的規範は、組織に頼ることは自分の力不足を露呈するのではという心理的プレッシャーを生むと考えられます。

②矮小化バイアス

子ども同士のトラブルに対し、大人が介入しすぎると子どもの成長の機会を奪うという思考が、いじめの深刻さを見誤らせることもあります。

被害者の苦しみが過小評価されることで、緊急性の認識が遅れてしまうわけですね。

③報告や共有への抵抗感

自分が担任しているクラスや部活動で、いじめが発生したことを管理職や学校いじめ対策組織に報告することに抵抗感があるという教員もいます。

特に、いじめに対する組織的な対応が乏しいような学校環境では、この傾向が強まると思われます。

④自分が解決できるという過信

教職経験を積んだ教師ほど、今まで自分でいじめを解決してきたという成功体験が過信につながることもあると考えられます。過去の成功が、現在の深刻なケースへの適切な危機感を鈍らせてしまうわけですね。

また、新任教師などで過度な自信を持ってしまい、それが抱え込みにつながることも考えられます。

教師がいじめを抱え込む環境的要因

教師がいじめを抱え込む環境要因

教員がいじめを抱え込む環境要因として、以下のようなものが考えられます。

  1. いじめを組織的に共有する文化がない
  2. 多忙な職場環境
  3. 心理的安全性の低さ

①いじめを組織的に共有する文化がない

いじめは組織的対応が重要ですが、いじめの情報を共有するという文化が十分に醸成されていない学校では、何をどのタイミングで誰に報告すべきかが不明確なまま放置されています。

いじめの認知は学校いじめ対策組織で行うことと明文化されていますが、それが十分にできていない学校が多いのがっ現状です。

特に、これまでの重大事態調査報告書の中でも、いじめ防止等の中核的な仕組みである学校いじめ対策組織が形骸化していた事例は多く報告されています。

②多忙な職場環境

日本の教師は世界的に見ても異常に長い労働時間を抱えています。

授業準備・部活・保護者対応・校務分掌など多くの業務の中で、いじめの情報を整理して報告する時間的余裕がないというのが現実です。

また、多忙はいじめを重大視することへの抵抗感を生み、抱え込みの温床になると思われます。

③心理的安全性の低さ

管理職に相談しづらかったり、発言や意見がしにくい職場では、教師が報告を躊躇うことに繋がると考えられます。

いわゆる心理的安全性の高い職場の雰囲気で、いじめの早期発見・早期対応を評価する文化がなければ、情報の共有をスムーズに行うことはできません。

いじめ法制が求める組織的対応と情報共有

2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」は、学校が組織的にいじめ対応をすることを義務づけています。

法律の要点を正確に理解することが、教師の抱え込みを防ぐ制度的基盤となります。

いじめ防止対策推進法が定める抱え込みの防止

第22条(いじめ対策組織の設置)
学校におけるいじめ防止等の対策のための組織の設置を義務づけています。
複数の教職員・心理・福祉専門家等で構成するとされており、いじめの対応を担任一人に任せない体制の根拠となっています。

第23条(いじめに対する措置)
学校の教職員やその他の関係者は、いじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、学校への通報その他の適切な措置をとるものとすることが定められています。

抱え込み防止にはいじめの定義への理解が重要

法律上のいじめ定義は広く設定されており、被害を受けた児童生徒が心身の苦痛を感じていれば、それはいじめです。

個人同士のトラブルでも、一度きりの諍いであっても、被害者が苦痛を感じていれば認定要件を満たします。この定義への理解がなければ、このくらいはいじめじゃないという誤った判断が抱え込みにつながってしまいます。

いじめの定義への正しい理解が、適切な情報共有へと繋がります。

抱え込み防止に学校いじめ対策組織の機能を活かす

法第22条が義務づける学校いじめ対策組織は、全ての学校で設置されていますが、形骸化しているケースも少なくありません。

この組織が抱え込み防止の要として機能するためには、以下のような条件が必要です。

  • 校長や生徒指導主事(ミドルリーダー)が適切にリーダーシップを発揮する
  • いじめ対策に関する会議を定期的かつ柔軟に実施する
  • スクールカウンセラーなど心理職を組織へ実効的に参画させる
  • 組織で生徒に関する情報を集約し、会議の記録も残しておく

その他、学校いじめ対策組織の適切な運用に関するチェックリストについては、以下の記事をご参照ください。

まとめ:いじめを抱え込まない文化を学校全体で育てる

本記事で見てきたように、教師によるいじめの抱え込みは、個人の意志や心理的要因の問題であるとともに、組織の文化や仕組みの問題です。

一人の担任教師がいじめを抱え込んでしまう背景には、時には責任感の強さや子どもへの思いも存在します。

その善意を尊重しつつ、その善意が孤立した対応に向かわないよう、学校という組織がしっかりと受け止める体制を作ることが求められます。

すべての関係者が一人で抱えず、必ず組織で共有すること。この仕組みを成立することで、今の学校のいじめ対応に求められています。

子どもたちの命と尊厳を守るために、いじめに対して学校はチームとして動かなければなりません。その基盤となる情報共有と組織的対応の文化を、学校に上手く導入することが必要です。

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この記事を書いた人

いじめ対策Web代表。主な経歴に公立高等学校教員やライティング業など。徳島県出身。
現在は博士号の取得に向けて大学院に在籍中。

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