いじめ対策担当教員の必要性と導入事例

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いじめ防止対策推進法が施行されて以来、各自治体はいじめに関する様々な取り組みを進めています。

その中でも、今回は、学校に「いじめ対策を専門とする教員」を配置する取り組みに注目します。

自治体や学校によって呼び方は様々ですが、本記事では「いじめ対策担当教員」として統一します。

本稿では、まずはいじめ対策担当教員の必要性について考察し、後半では導入事例として大津市、浜松市、岐阜市の取り組みを検証してみます。

目次

いじめ対策担当教員の必要性

2013年のいじめ防止対策推進法においては、いじめ対策を専門として行う教員を配置する旨の記載はありません。

しかし、学校によるいじめへの組織的対応を進めるにあたって、組織をリードしていく役割の教員は果たして必要ではないのでしょうか。

いじめ防止対策推進法の三党案にあった「いじめ対策主任」

いじめ防止対策推進法の成立時において、当初の三党案「いじめ対策推進基本法案」においては、「いじめ対策主任」を全学校で任命する旨の記載がありました。

しかし結局は、いじめ対策を主とする役割の教員を配置するという条文は織り込まれない形で、いじめ防止対策推進法が成立することとなりました。

いじめ防止対策推進法案の成立時には元々、与党案である「いじめの防止等のための対策の推進に
関する法律案」と、三党案である「いじめ対策推進基本法案」の二案が提出されていました。その後は両法律案の一本化に向け、与党案をベースに三党案を盛り込む形で調整が進められました。
いじめ防止対策推進法の成立」(2013, 小林美津江) より

学校いじめ対策組織をまとめる業務は必要とされている

いじめ防止対策推進法にはいじめ対策を専門とする教員の配置は記載されなかったものの、いじめ防止対策推進法の立案に携わった参議院議員の小西洋之氏によれば、以下のように述べられています。

本法が規定する総合的ないじめの防止等の対策については当然に全体の総合調整等を行う業務が必要となると考えられる
「いじめ防止対策推進法の解説と具体策」(2014, 小西洋之)より

このことから、学校が効果的な組織的対応を進めるにあたって、いじめ対策担当教員の存在は欠かせないと考えられます。

いじめの相談・通報を受け付ける役割

学校いじめ対策組織には、「いじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割」があると国の方針で示されています。

学校いじめ対策組織の役割 (一部)
・いじめの未然防止のため,いじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりを行う役割
・いじめの早期発見のため,いじめの相談・通報を受け付ける窓口としての役割
・いじめの疑いに関する情報や児童生徒の問題行動などに係る情報の収集と記録,共有を行う役割

いじめの相談・通報を受け付ける役割を、いじめ対策担当教員のようないじめ対策に知見の深い教員が担うことは、迅速かつ的確な対応へと繋がり、生徒からの信頼も得やすいと予想されます。

そのため、いじめ対策担当教員が、組織における代表的な相談・通報の窓口として機能することは適任と考えられ、その配置の必要性が伺えます。

いじめ対策担当教員の導入事例

それでは実際に、各自治体のいじめ対策担当教員の導入事例を見ていきます。今回は、大津市・浜松市・岐阜市における取り組みです。

大津市:子ども支援コーディネーター(旧:いじめ対策担当教員)

大津市では、全市立小・中学校に対し、「子ども支援コーディネーター」(平成25年度から令和元年度までは「いじめ対策担当教員」)を配置しています。
第3期 大津市いじめの防止に関わる行動計画 (大津市いじめ防止基本方針)」(2025, 大津市・大津市教育委員会)より

子ども支援コーディネーターの配置人数は平成26年度以降徐々に増員し、比例して学校現場におけるいじめ対策委員会の開催回数も年々増加しているとの報告があります。

第3期 大津市いじめの防止に関わる行動計画 (大津市いじめ防止基本方針)」(2025, 大津市・大津市教育委員会)より

子ども支援コーディネーターの役割

子ども支援コーディネーターは、学校の中でいじめの疑い事案の情報を集約し、いじめ対策委員会を開催することで、組織的な情報共有と、組織対応を推進する役割があると述べられています。

また、教育委員会は、子ども支援に重要な役割を担う子ども支援コーディネーターに対し、対応能力の向上のための指導・研修を実施します。

子ども支援コーディネーターの具体的な役割
(1)生徒指導上の対策に関するマネジメント
いじめ防止対策の推進、様々な課題の解決に向けた組織対応の推進
(2)校内組織の連携を促進、各校務分掌との連携
生徒指導に関する校務分掌部会への参加、情報の収集、連携の推進
(3)課題を抱えた子どもの支援
専門家の助言に基づく課題の評価・分析、支援策の調整、各担当と連携して支援を実施
(4)関係機関等との連携
担当する教職員と、関係機関、学校園、地域各種団体、関係者等との連携促進
(5)生徒指導上の課題解決のための校内研修
研修担当と連携し、いじめ、不登校、児童虐待等に関する校内研修を開催
第3期 大津市いじめの防止に関わる行動計画 (大津市いじめ防止基本方針)」(2025, 大津市・大津市教育委員会)より

大津市のいじめ対策に関する評価

この大津市による取り組みは平成25年度(2013年)から続いており、12年間以上の歴史があります。

いじめ対策担当教員が導入されて以降、いじめの認知件数は劇的に増加しています。いじめ防止対策推進法の成立とほぼ同時期だったこともありますが、いじめ対策担当教員の存在が寄与したことも十分に考えられます。

大津市における教員向けアンケートの結果からは、「大津市のいじめ対策の取組が、全体としても、各取組についても、概ね効果的と評価されている」と確認されているとのことです。
第3期 大津市いじめの防止に関わる行動計画 (大津市いじめ防止基本方針)」(2025, 大津市・大津市教育委員会)より

浜松市:いじめ対策コーディネーター

浜松市では、「いじめ対策コーディネーター」が校務分掌に位置付けられ、いじめに関する情報収集や、保護者や地域との連携の窓口としての役割を担っています。

いじめ対策コーディネーターの役割

いじめ対策コーディネーターは、学校におけるいじめの防止等の対策を推進するリーダーとして位置づけられており、以下のような役割を担っています。

いじめ対策コーディネーターの具体的な役割
①いじめに関する情報収集、学校全体の実態把握の役割
ア 日常的に教職員から情報を収集及び集約する。
イ こどもの表れ等から情報を収集及び集約する。
ウ 保護者や地域から情報を収集及び集約する。
エ 定期的なアンケート調査の計画・実施・分析する。

②保護者・地域・関係機関との連携の窓口としての役割
ア 保護者や地域に向けていじめ問題の対応について発信する。
イ 教育委員会、児童相談所、警察、家庭裁判所、医療機関等関係機関と連携する窓口となる。
ウ スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等と連携する窓口となる。
エ 必要に応じて、ケース会議を計画・実施する。

③いじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりに資する指導を推進する役割
学級づくりを軸として、特別の教科道徳や特別活動を通してこどもたちが円滑に他者とコミュニケーションを図る能力を育て、人権意識の向上を図るよう働き掛ける。
④校内研修の企画・運営する役割
校内研修を企画し、教職員のいじめへの感度を高め、いじめの未然防止・早期発見・早期対応の共通理解を図る。
浜松市いじめの防止等のための基本的な方針」(2025, 浜松市)より

岐阜市:いじめ対策監

岐阜市では令和2年度(2020年)より、いじめの未然防止や早期発見・早期対応を確実に担保し、事態を解決に導くことで、子どもたち一人ひとりが安心して生活できる環境を構築することを目的として、市内の小中学校(69校)、特別支援学校(1校)、市立高校(1校) に「いじめ対策監」を配置しています。
教育委員会月報 令和5年9月号 No.887」(2023, 文部科学省)より

また、いじめ対策監が役割に専念できる環境を整えるために、すべての学校に市費常勤講師を配置し、授業担当時数を基本的に週5時間以内としているとのことです。

いじめ対策監の役割

いじめ対策監は、組織的に対応できる体制を構築する役割だけでなく、ビブスを着用し校内巡回や授業支援等を行うといった取り組みも行われています。具体的には以下の通りです。

いじめ対策監の通常における役割
・学校いじめ防止基本方針の見直しをする。
・ビブスを着用し校内巡回や授業支援等行い、児童生徒の実態把握、未然防止に努める。
・未然防止のための指導として、お昼の放送や通信、職員との日々の情報交流等で、児童生徒の姿、行動を紹介し、その価値を広げる。
・問題行動報告書の作成及び報告を行う。報告書をもとに、定例の打合せ等で事案交流を実施し、全職員で共通理解のもと児童生徒に向かえるようにする。校内における事例や事例集をもとにした研修な
ど、教職員の研鑽の場をマネジメントする。
・学校生活(いじめ)及び情報提供アンケートを実施後、全ての児童生徒の記述内容を確認し、いじめの疑い、いじめに発展する可能性がある内容については、学年主任及び学級担任に児童生徒への聞き取りを行うように指示を出し、その結果を確認する。
・生徒指導主事、教育相談担当と連携して、「岐阜県いじめ実態調査(7月、12 月)」、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(年度末)」の調査及び報告を行う。
・ICT を活用した子どもの健康サポート「ここタン」や学校アセスメント調査等の情報をもとに対応を検討し、全職員と情報を共有し指導につなげる。
・管理職の指示のもと、学校いじめ防止等対策推進会議(校内、外部)を実施し、いじめ事案の指導経過及び今後の指導について市教委へ報告を行う。
・各校の児童生徒の実態、問題行動等の傾向をもとに、学校いじめ防止基本方針(ガイドライン)の見直しを継続する。
・年間11 回の対策監研修会及びブロック別対策監研修会に参加する

教育委員会月報 令和5年9月号 No.887」(2023, 文部科学省)より

各自治体の導入に対する効果について

それぞれの自治体における、いじめ対策担当教員の導入事例を調査しましたが、その効果検証は管見の限り発見することができませんでした。

いずれの自治体も、いじめ対策担当教員の導入以外に様々ないじめ対策を行っており、いじめ対策担当教員の導入単体の効果を詳しく出すことは難しいと考えられます。

しかし、一部学校における学校いじめ対策組織の形骸化が問題となる中で、組織対応を推進する役割を持ついじめ対策担当教員の存在は、学校における組織的対応の徹底において重要な役割を担っているのではないかと考えられます。

文部科学省による生徒指導担当教員の配置

文部科学省は令和7年度(2025年度)から、全公立中学校に不登校やいじめの対応に専任であたる「生徒指導担当教員」を配置する方針を示しています。
全公立中学校に不登校やいじめ対応専任の「生徒指導担当教員」、文科省が体制強化…来年度から配置」(2024,読売新聞オンライン)より

実際に、「教師を取り巻く環境整備に係る令和7年度予算(案)資料」でも、学校の指導・運営体制の充実のために「中学校における生徒指導担当教師の配置拡充 + 1,000人」と記載されています。

急増する不登校やいじめ等に対応し、誰一人取り残されない学びを支援するねらいがあるようで、これは各自治体が進めているいじめ対策担当教員の導入の目的に近いと推測されます。

ただし、いじめ専任というわけではなく、名称も生徒指導担当ということですので、学校いじめ対策組織のリーダー的存在を担えるかどうかは疑問が残ります。

まとめ:いじめ対策担当教員の制度整備が望まれる

いじめ対策担当教員の必要性としては、やはり「学校いじめ対策組織をまとめる役割」と「いじめの相談・通報を受け付ける役割」が肝心だと考えられるため、これらを確実に実施できるような教員確保のための制度整備が望まれます。

一般の教員は授業や部活動、クラス運営など多岐にわたる業務を抱えており、いじめ問題について専門的に学ぶ時間や機会が限られています。

いじめ対策担当教員は、いじめ対応に関する専門的な研修を受け、いじめに特化した知識を深めることができます。また、いじめ対策担当教員が事案の初期対応や情報共有の中心を担うことで、他の教員の負担を軽減できます。

何より、他の教員にとっても、いじめの芽となりうる事態を報告し、中心となって対応をしてくれる教員が決まっていることは心強いのではないでしょうか。

これから各自治体の事例を参考に、いじめ対策担当教員の制度をより実効性のある制度へと進化させていくことが求められるかと思います。

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