学校いじめ対策組織の形骸化を重大事態調査報告書から分析②

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いじめ防止対策推進法の第22条に定められている、いじめの防止等の対策のための組織(以下、学校いじめ対策組織)が形骸化・機能停止していた事例についてまとめます。

事例にあたっては、これまで公表されてきたいじめ重大事態調査報告書より、学校いじめ対策組織の形骸化に関連すると思われる部分を引用しています。

前回記事については以下のリンクからご覧ください。

目次

令和3年 京都府の高等学校におけるいじめ重大事態

京都府立高等学校の生徒が令和2年から令和3年にかけて重大事態に至るいじめを受けた事案について、いじめ重大事態に関する調査報告書が令和5年2月1日に公表されました。

調査報告書からは、以下の文章の記述が認められました。

「 1月下旬から2月にかけて、対象生徒及びその母は、担任や保健部に、いじめと捉えるべき事象の相談を繰り返しているが、担任もしくは保健部の対応で終わっており、学校がいじめ対策会議を開催することは無かった。」
「いじめ重大事態に関する調查報告書」p.40 (2023, 京都府)

「当該校のいじめ防止基本方針には、『いじめの防止等に係る校内研修を実施する』とある。にもかかわらず、校長の聴き取りによれば、本事案の前、当該校ではいじめに関する研修が実施されていなかった。担任等が、いじめと捉えるべき事象の相談を受けながら、いじめ対策会議が開催されなかったことも、生徒指導部長(教諭Z)の対象生徒に対する明らかに不適切な発言も、教職員がいじめ問題について学ぶ機会がなかったことが原因とも考えられる。」
「いじめ重大事態に関する調查報告書」p.41 (2023, 京都府)

いじめの相談・報告があっても、組織的対応を行うことなく、教師が単独で対処をしていたことが分かる記載となっています。

また、組織的対応の不十分に加え、研修を行っていなかったことからも、いじめ防止基本方針自体が形骸化していたことが読み取れます。

令和4年 北海道の高等学校におけるいじめ重大事態

令和4年6月以降に北海道所在の高等学校に在籍する1年生の男子生徒が、約半年間の間に3年生より日常的な暴行、暴言、いやがらせ、強制わいせつ行為など数多くの被害を受けていた事案について、調査報告書が北海道いじめ問題審議会より令和6年8月に公表されました。

調査報告書からは、以下の文章の記述が認められました。

「本学校ではいじめをどのように認知して、どのように委員会にあげるのかが定まっておらず、いじめ対策委員会は存在していても、実働しておらず形骸化していたと言えよう。」
「調查報告書【公表版】」p.27 (2024, 北海道いじめ問題審議会)

その他の関連する記載は以下の通りです。

「いじめ対策委員会の構成員が全職員となっており、そのためいじめについての話し合いが全体の職員会議で行われることはあっても、それが通常の職員会議なのかいじめ対策委員会なのか分からなかった。」p.27

いじめ対策委員会の構成員が全職員であるというのは、よほど小規模校でない限りは趣旨に合わないと考えられ、学校いじめ対策組織のメンバー選定意識への杜撰さが伺えます。

令和4年 東京学芸大学附属大泉小学校におけるいじめ重大事態

東京学芸大学附属大泉小学校5年生の男子児童が、令和4年から令和5年4月まで重大事態に至るいじめを受けた事案について、調査報告書が東京学芸大学附属大泉小学校いじめ問題調査委員会より令和7年2月20日に公表されました。

本調査報告書からは、以下の文章の記載が認められました。

「本件は、本校の誤った認識や状況判断に基づく組織的対応の欠如と管理職を含む教職員による不適切な対応がいじめの重大事態の発生に至る原因となった事案である。」
「調査報告書(概要版)」p.1 (2025, 東京学芸大学附属大泉小学校いじめ問題調査委員会)

その他、関連する記載は以下の通りです。

「いじめ認知の点でも、本校の組織的な対応の欠如の影響は極めて大きく、本校管理職によるいじめの状況といじめの解消に関する誤った判断が、本件いじめの継続と構造化・固定化による深刻な被害を招き、いじめ重大事態が発生した。」p.12

「最も本質的な問題点は、いじめ防止法、国いじめ防止方針及び生徒指導提要等(以下「いじめ防止法等」という。)の理解不足により、管理職や学校設置者が責任を自覚することなく、本校において、いじめ防止基本方針が空文化し、いじめ対応組織であるいじめ対策委員会が形骸化し、組織的かつ日常的ないじめ防止等に関する体制と取組が欠けていた点にあることを冒頭に指摘しておく。」p.13

本調査報告書は、いじめ重大事態が起こった原因・問題点を、いじめ防止対策推進法や国の方針への学校の理解不足による学校いじめ対策組織の形骸化であると断言していることが印象的です。

令和5年 大分市の小学校におけるいじめ重大事態

大分市内の小学校に在籍していた児童が重大事態に至るいじめを受けた事案について、いじめ防止対策推進法第28条第1項に係る重大事態の調査結果報告書が大分市教育委員会より令和6年10月1日に公表されました。

本調査報告書からは、以下の文章の記載が認められました。

「当該学校が取り決めた『学校いじめ防止基本方針』が形骸化していたことが問題点として挙げられる。少なくとも現校長に変わった令和4年度は緊急のいじめ防止対策委員会は開かれていたが、定例のいじめ防止対策委員会は開かれていなかった。これは、学校側のいじめ対策に関する姿勢が不十分であったことを示していると思われる。」
「いじめ防止対策推進法第28条第1項に係る重大事態の調査結果について(令和4年度第1号事案)」p.14 (2024, 大分市教育委員会)

関連する記載は以下の通りです。

「担任は児童Aに対してその都度注意するのみであり、何かしらの組織的、継続的な取り組みは行われてこなかった。」p.14

学校いじめ防止基本方針の形骸化が、組織的対応の機能不全へとそのまま繋がったケースだと見受けられます。

続く学校いじめ対策組織の形骸化事例については、以下リンクよりご覧ください。

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