本記事ではいじめ防止対策推進法の第22条に定められている、いじめの防止等の対策のための組織(学校いじめ対策組織)が形骸化・機能停止していた事例についてまとめます。
学校いじめ対策組織についての詳しい情報は、以下の記事をご確認ください。

なお、事例にあたっては、これまで公表されてきたいじめ重大事態調査報告書より、学校いじめ対策組織に関する部分を引用しています。
平成30年 名古屋市の中学校におけるいじめ重大事態
平成30年1月5日に名古屋市名東区に所在する市立中学校の女子生徒が自死した事案について、名古屋市いじめ問題再調査委員会による調査報告書が令和3年7月30日に公表されました。
本調査報告書からは、以下の文章の記載が認められました。
「いじめ防止対策の要であるいじめ防止基本方針,いじめ防止対策の重要な委員会であるいじめ等対策委員会が形骸化しており,いじめ防止のための活動として実態がなかった。」
「調査報告書(公表版)」p.55 (2021, 名古屋市いじめ問題再調査委員会)
その他の関連する記載は以下の通りです。
「いじめ等対策委員会は,いじめ防止のためには重要な委員会であるが,いじめ等対策委員会(生徒指導対策委員会)となっており,生徒指導対策委員会を兼ねているかのような記載であり,生徒指導との区別がされておらず,実際は,主任会と兼ねられていた。」p.56
「当該校のいじめ防止基本方針,学校経営案(抄)等では,いじめ防止対策について整った方針等を作り,いじめ防止に力を入れると記載はしているが,実際には,いじめ等対策委員会は実態がなく,いじめ防止基本方針に基づいて,学校全体でいじめ防止に力を入れていたといえる実態がなかった。」p.57
平成29年・令和元年 尼崎市の高等学校におけるいじめ重大事態
市立高等学校に在籍していた2名の生徒が、平成29年、令和1年にそれぞれ別に部活動内で重大事態に至るいじめを受けた事案について、尼崎市いじめ問題対策審議会による調査報告書の概要が令和3年3月17日に公表されました。
調査報告書からは、以下の文章の記載が認められました。
2 学校組織上の問題点
(1)学校の問題点
①体育科及び部活動と学校内の他の組織との相互理解や連携が脆弱であったこと
②「学校いじめ防止基本方針」の形骸化により組織的な対応ができなかったこと
③「校内いじめ対策委員会」が役割を果たさなかったこと
④体育科が独立の組織のようになっており、問題対応をすべて体育科の中で解決しようとする風潮が本校の中に蔓延していること
「調査報告書の概要」p.9 (2021, 尼崎市いじめ問題対策審議会)
令和元年 湖南市の小学校におけるいじめ重大事態
湖南市立小学校の児童が令和元年度、令和4年度に重大事態に至るいじめを受けた事案について、令和5年1月26日に湖南市教育委員会で作成した報告書を基に公表版が作成され、令和6年5月27日に公表されました。
調査報告書からは、以下の文章の記載が認められました。
「令和元年度の事案については、学校はいじめ事案が発生したにも関わらず、いじめ対策委員会を開催することなく、外部機関とも連携ができておらず、令和元年4月から7月まで継続的にいじめが続いたことにつながっていることがわかる。校内のいじめ対策委員会が形骸化していたことや問題が発生したときに、相談・報告するシステムが機能していなかったと言わざるを得ない。」
「いじめの重大事態に係る調査報告書(公表版)」p.19-20 (2023, 湖南市教育委員会)
その他の関連する記載は以下の通りです。
「令和4年度の事案については、学校はいじめ対策委員会を即時開催し、いじめ問題の解決に組織的に取り組もうとしていた。ただ、その後の対応としては、定期的にいじめ対策委員会を開催し、登校支援やいじめ問題の解決に組織的に取り組んでいたとは言い難い。Aの保護者の訴えに対する対応ばかりになったり、一部の職員のみの対応となったりと組織的な体制であったとは言えない。」p.22
令和3年 旭川市の中学校におけるいじめ重大事態
令和3年2月に旭川市立中学校の女子生徒が自死した事案について、旭川市いじめ防止等対策委員会
によるいじめの重大事態調査が行われ、調査報告書が令和6年9月13日に公表されました。
本調査報告書からは、以下の文章の記載が認められました。
「学校は法に基づく方針策定義務及び組織設置義務は履行していたものの、現実に実効性あるものとして学校いじめ防止対策組織が活用されていたとはいえない。」
「報告書〔公表版]」p.207 (2024, 旭川市)
その他の関連する記載は以下の通りです。
「学校いじめ防止対策組織は法律上設置することが義務づけられているが、現場では、これが設置されているものの、多忙を理由に生徒指導委員会、生徒指導部などでこれを代替する例が多く見られ、学校いじめ防止対策組織としては明らかに形骸化している。」p.148
「そもそも児童生徒の問題行為を捉えて指導することを目的とする生徒指導部と、学校いじめ防止対策組織のメンバ一が同じであるということ自体が問題であると言わざるを得ず、仮にメンバーが同じであったとしても、生徒指導部の会議と学校いじめ防止対策組織の会議を混同してはならず、学校いじめ防止対策組織の会議はいじめの対応のためのみに開催されるべきである。」p.200-201
続きとして、その他の学校いじめ対策組織の形骸化事例については、以下リンクよりご覧ください。


